植物工場(人工光利用型)の始まりは、米ゼネラル・エレクトリック(GE)による原子力潜水艦内での野菜育成の試みだ。また、アメリカ政府はNASAの宇宙開発でも植物工場を利用しようとしていた。

「日本ではつくば万博における回転式レタス生産工場の展示を皮切りに、80年代から植物工場の第一次ブームが訪れました。さらに90年代には農業分野への異業種企業の参入が促進され、第二次ブームが到来しました。その後、法整備の改定や麻生内閣以来の多額の予算措置により、植物工場は爆発的に増えました」

 2009年度以降、農林水産省と経済産業省の補正予算には、植物工場関連として50億円を超える補正予算が組まれていることも珍しくない。植物工場の政策を推し進めたいという国家の強い意志が感じられる。

 その結果、人工光型植物工場は大小合わせて全国におよそ200の施設が作られている。

生産コストの大きさから
植物工場の6割が赤字

 国からの後押しもあって続々と誕生した植物工場だが、全体的に経営は芳しくないという。

「人工光型植物工場の6~7割は赤字だと言われています。その理由は、建設費やランニングコストがかかるわりに利益が少ないからです。そもそも人工光型施設で生産している植物は、技術面からレタスなどの葉物野菜がほとんど。現在、レタスは露地野菜も含め一個100~200円ほどで売られています。1日2万株を生産できる大型施設もありますが、数億円の建設費と維持費、人件費を考えると、一個100円では採算が取れない企業がほとんどでしょう。単価の高い果物などを大量生産できれば別ですが、技術、コスト的にそれも難しいのです」

 植物工場の建設には平均で3億円はかかるといわれる。それに付随して空調設備の維持費や電気代、水道代などもかかってくる。事実、露地栽培レタスとの価格競争に敗れ、大企業である東芝さえも2016年に植物工場から撤退している。

 また植物工場は効率も良く、環境にも配慮していると思われがちだが、ここにも疑問があると小塩氏は話す。

「日本の政治家が度々、農業施設の視察に訪れるオランダでも、研究者は植物工場に否定的です。施設園芸の分野で世界的に有名なオランダのワーヘニンゲン大学のエペ・ヒューベリンク氏は同じトマト1キロを生産するにしても、人工光型植物工場ではエネルギーロスが10倍にもなると指摘しています。このような結果からオランダの研究者には『なぜロスも少なく、値段もゼロの太陽光を使わないのか』と人工光型施設に苦言を呈す者も多い」