電力業界とつながる
植物工場政策

 小塩氏は「そもそも植物工場は電力業界とただならぬ関係がある」と指摘する。そこには食料の安定的確保とは別の目的が透けて見えるという。

「東日本大震災後には、原発メーカーやそのグループである日立、東芝、日本GE、三菱などが積極的に植物工場事業を展開しています。また、電力中央研究所の野菜工場は青森県六ケ所村にありましたが、原発事業との深い関わりを想起させます。さらにチェルノブイリ原発事故以降、原発の新規立地が停滞する中で生み出されたのが「地域共生型発電所」という概念で、福祉型植物工場も原発のイメージ転換のために考え出されたものでした。各地の原発付近には大規模な植物工場が建設されていることが多く、電気代を浮かせるために原発の夜間電力を使用しているのです。むしろ原発の電気を利用させるために植物工場を誘致しようとする思惑すら感じられます」

 小塩氏はこのような農業政策に危機感を示している。

「日本の農業はただでさえ農薬メーカーや農機具メーカーによる高額な商品が幅を利かせていますが、植物工場にはその比ではないコストがかかっている。工場や電気とは違い、畑や太陽光はタダなのに、私たちの税金に由来する潤沢な補助金を何億円もかけて100円のレタスを作る理由は何でしょうか。実は、大企業や資本家はレタスを作って売りたいのではなく、植物工場設置の際につけられる大型の補助金が目当てなのです。もしこのような野菜の工場生産が進められれば、アメリカのように小規模農家はなくなってしまい、培ってきた技術や思想を次世代に伝えられなくなります。農地に工場を建てるのではなく、土地を耕し、農家を生み出す仕組みを考えた方が将来的にも意味がある。工場で機械的に野菜を生み出すことはあまりにも短絡的な考えで“人間の身の丈に合っていない”ように感じます」

 現代は「スマート農業」と呼ばれる工学的な農法がもてはやされるが、立ち止まってテクノロジーへの傾倒を見直すことも必要かもしれない。