尾原 そうですね、そこに気付きがあったから、当時の高いオープンリールをちゃんと全部残していたし。
山口 残して、それを横流しする人が出てきて、真っ当な流通に乗っていない。つまり、マーケティングをしていないのに、なぜか人から人に伝わって残っている。
今、YouTubeを見てもたくさん出ていますよね。だからプロセスというものは、もともと人を引きつける何かがあったのか?何なんですかね。
尾原 そこからもすごく分解したいですよね。
僕たちには根源的な欲求がある
尾原 今ふと思ったのが、ビートルズがやったプロセスを「両利きの経営」で言うと、新しいものは最初、「知の探索」というまったく違う世界に向かっていきます。このときに大事なのが、「自分の違和感を大事にする」「初期衝動に戻る」です。
例えば「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」で言うと、「ジョン・レノンの孤児院での思い出」から始まるわけじゃないですか。そういう「異世界に行きたい」「自分の原点に帰りたい」ということへの憧れもあるかもしれません。
よくマーケティングで言われるのが、「アハモーメント」です。「これがあるとユーザーが惚れる」って言うんですけど、その一方でクリエイターがクリックする瞬間、「この瞬間にこの作品は生まれたんだ!」というところに出会いたい、みたいなところもあるのかなと思います。
でも、今のお話を聞いていると、テイク10とテイク11とかになってくると、今度は「なんで、その微細なところをまだまだ突き詰められるんだ?」という、両効きの経営で言う「知の深化」のほうですよね? 深掘るという。なんか、いろいろ混ざっていますよね。
山口 そう、おもしろいですよね。僕たちって、伝説的なプロダクトとかサービスとか、その会社で一番最初に提案されたときの企画書が見られる、と聞いたら見たいじゃないですか。
例えば、トヨタ自動車でプリウスが一番最初に企画として提案されたとき、こんな背景とか問題意識とかがありました。最初はこんなデザインでした、とかよくありますよね。「あの画期的な製品の社内提案書、企画書はどんなだったのか?」って、本になっていたりします。
アウトプットの完成形だけじゃなくて、それはどんな紆余曲折を経てそういう形になったのか?って、音楽だけではなくて、ビジネスの世界でもみんな知りたいという根源的な欲求を持っていますよね。
尾原 そうですね。