本人にやらせるほうが手間や時間がかかったりして、介護者の方にとっては大変なときがあるのは重々承知していますが、スムーズにできなくても時間をかければできることは、できるだけ本人にやってもらいましょう。

 できないところだけ、周りが補助するスタンスでいることが大切です。

認知症の悪化を防ぐために効果的なのは「話し方」

 これまで30年の臨床経験からわかったことがあります。認知症の悪化を防ぐために最も大事なことは、「話し方」をはじめとする認知症の方への「コミュニケーションのとり方」です。

 症状にもよりますが、介護をする側が「話し方のコツ」や「ポイント」を押さえて話し方を変えれば、認知症の方の行動は少しずつでも変わります。

 そして、認知症の症状の進行も限りなくゆるやかにできるのです。中には介護者が話し方・接し方を変えることで、悪化が止まったケースもあります。

 認知症の進行が少しでもゆるやかになれば、結果的には介護者の気持ちにもゆとりが生まれるはずです。

認知機能を上げる話し方のポイントとは

 では、どのような話し方に変えたらよいのでしょうか。認知機能を上げるための話し方で欠かせないキーワードとなるのが、「情動」と「肯定」です。

 まず、「情動」とは感情のジャンルの一つで、一時的かつ急激な感情のことを指します。具体的にいうと、怒り、喜び、悲しみ、恐怖、不安などの激しい感情の動きです。

 認知症の方が記憶を失い、どこに自分がいるのかもわからず、靴の紐を結べなくなっても、大きな声で叱られれば「怖い!」、やさしく手を握って「大丈夫ですよ」と声をかけられれば「うれしい」。情動は確かに存在し、すぐには消えずに残ります。