うれしい、楽しいなどの“よい情動”を体験することで、認知症の方の困った行動が少なくなり、症状の進行が抑制されることは、医学的にも注目され、研究が続いています。

「それはきれいごと。認知症の祖父が急に怒りだして暴れたら、『いい加減にして!』と怒鳴るしかないでしょ?」

 介護者がそう思うのはごもっともです。でも、そんな方にこそ、ゆとりをもって介護ができるようになるためにも、今一度、話しかけ方を見直していただきたいのです。

 認知症の方がよい情動を体験できるような適切な話し方、接し方ができれば、困った行動が減る可能性が増え、ひいては介護者の方の心身の負担が減る糸口にもなります。

 認知症の悪化を食い止めるだけでなく、お互いに、より“ゆとり”を持つためにも、認知症の方が「うれしい」「楽しい」と少しでも感じられる話し方をすることが大切なのです。

話したくなる関係は「肯定」から生まれる

 認知症の方と話すときに、もう一つ大事なキーワードになるのが「肯定」です。記憶の一部が抜けてしまったり、ほかの人には見えないものが見える(幻視)のが認知症です。そのため、先ほど食べた朝食を食べていないと言い、知らない人が来たから怖いとおびえます。

「朝食は30分前に食べたよ!」「誰もいないよ、ほんとにしょうがないね」など、現実との相違を指摘することは簡単です。しかし、認知症の方にとっては、記憶がないのですから、実際に朝食は胃の中に納まっていたとしても、「朝食は食べていない」のです。