結果は「出すもの」ではなく「出るもの」

高橋 金沢さんは『超★営業思考』の中で、「毎週、営業成績のランキング情報が更新されるけれど、あまり意識しすぎないようにした。ランキング1位の営業マンに勝とうとしたら、もっと売上を上げなきゃと意識する。すると無理を始める。お客さまに対して間違ったことをし始める。それが怖い」ということを書かれていますね。これは「的外れな売り方」から自分自身を守った、賢明な思考・行動だったと感じます。

金沢 そうですね。ただ、正直に言えば、はじめのうちはランキングをめっちゃ気にしていたんですけどね……。ただぼくは、プルデンシャルで「日本一の営業マン」になるために、過去に日本一を取っている人の売上を調べ上げ、そこから逆算して自分がやるべき仕事の内容と量を算出し、それを自分に課して働き続けていました。

 ランキングを見て、1位との差がついていると動揺しますが、落ち着いて考えてみれば、「自分がやるべきこと」「正しいこと」をコツコツと積み上げていけば、いつの間にか自然に1位になっているはずなんです。ならば、毎週発表される社内ランキングに一喜一憂するのは意味のないこと。そう考え出したら、自然と気にならなくなりましたね。

高橋 社内のライバルを意識しすぎないのは大事なことですね。本来意識すべきは、「社内のライバル」ではなく「お客さま」ですから。

金沢 そうですね。「結果を出そう」と意識しすぎるから、結果が出ないとすぐに焦りだし、的外れな売り方をしてしまう。結果は「出すもの」ではなく「出るもの」と考え、今自分にできることをコツコツと積み上げていれば、そう間違ったことにはならないものです。

超一流の営業マンが、「結果は“出す”ものではなく、“出る”ものである」と考える理由金沢景敏(かなざわ・あきとし)
元プルデンシャル生命保険ライフプランナー AthReebo(アスリーボ)株式会社 代表取締役
1979年大阪府出身。京都大学ではアメリカンフットボール部で活躍。大学卒業後、TBS入社。テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じて、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命保険に転職した。当初は、思うように成績を上げられず苦戦を強いられるなか、一冊の本との出会いから、「売ろうとするから、売れない」ことに気づき、営業スタイルを一変させる。
そして、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRT(Million Dollar Round Table)の6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、自ら営業をすることなく「あなたから買いたい」と言われる営業スタイルを確立し、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な業績をあげた。
2020年10月、プルデンシャル生命保険を退職。人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReebo(アスリーボ)株式会社を設立した。著書に『超★営業思考』(ダイヤモンド社)。

高橋 本当にその通りだと思います。

金沢 ただ……保険の営業でやっかいなのが、手数料なんです。

高橋 「やっかい」とは?

金沢 嫌でも目に入ってしまうんですよ。だからどうしても、自分の成績上昇に直結する、手数料率の高い保険をお客さまに勧めたくなってしまう。似たような保険でも、手数料率が高いものもあれば低いものもある。フルコミッションで働く保険の営業マンならばどうしても手数料が高い保険を勧めたくなってしまう。これが人情というものです。

高橋 なるほど。目先の利益に目がくらんでしまうわけですね。

金沢 そうなんです。だからこそ大事なのは、自分に対して「これは誰の保険?」「これは何のためにやっているの?」と問いかけること。そうすることで、「これは、お客さまの保険だよな」「じゃあ自分のために手数料の高い保険を勧めるのはおかしいよな」と、正しい方向に軌道修正できます。

 みんな、「自分は決して清廉潔白ではなく、欲を持ち、油断すると欲に負けかねないのだ」と認めるべきです。自分の中に「目先の利益をとっちゃえよ」とささやく悪魔がいるとわかっているから、「本当にそれでいいのか?」と自問自答ができるんです。

 しかし、中には、手数料の高い保険を提案するのがごくごく正義だと思っている営業マンもいる。そういう人に限って「自分は清廉潔白だ」と公言したりしているのですが、長続きしませんね。

高橋 営業マンとしては、「目先の売上」はどうしたってほしくなります。だけど、それをお客さまに押し付けようとしたときに、すべては終わる。「売り手」の都合を正当化しないことが大事なんでしょうね。

 法人営業でも、たとえば今期の目標にまだ足りていないとして、目の前に受注できそうなお客さまがいて、「このプランを選んでくれたらなんとか目標に届くな」というちょっと高めのプランがあったとしたら、やはりそのプランを勧めたくなるという場面は現実としてあると思うんです。

 ただ、そこで盲目的に「これが営業マンとして正しい姿なのだ」と自分を正当化するのか、それとも「自分の都合で、お客さまに高い買い物をさせてしまうのは間違っている。今期は目標未達の責任を負うとしても、来期はこのようなことで悩まないように、もっと早めから動いて数字を積み上げよう」と考えるか。両者には雲泥の差があります。「売り手の都合」と「お客さまの都合」の折り合いを考えるバランス感覚が、売り手と買い手の「ズレ」を解消するひとつのポイントになりそうですね。