首都圏の住みたい街で
人気が高まる郊外エリア

 このような状況で、自宅にいる時間が増えれば増えるほど、居住スペースや生活全般に関する課題が目に付くようになるものだし、また現在の住宅に対する改善要望も出てくるものだ。

 このところ、マンションの管理組合や管理会社に日常的に寄せられる苦情のうち、自宅住戸の隣室や上階からの騒音・生活音やにおいに関するものが大きく増えているという。このことからは、コロナによってストレスフルな状況に置かれた多くの人が、居住スタイルや生活全般、もしくは住むエリアについていろいろと考えを巡らせる機会を増やしていることが推察される。

 筆者が所属するLIFULL HOME’S総研では、毎年ユーザーの物件検索数や問い合わせ数を基に集計する「買って住みたい街&借りて住みたい街ランキング」の分析を実施している。

 2021年には特に首都圏の「借りて住みたい街」の上位に、「本厚木」「八王子」「千葉」など多くの準近郊・郊外エリアの駅名が登場し、コロナ禍での新たなトレンドとして注目された。

 これは、コロナによってテレワークやオンライン授業が主流となった“オンタイム”をオフィスや学校ではなく、専ら自宅で過ごす機会が増えたことによって自宅の生活環境自体を変えたいという意向の表れとみることができる。

 賃料を少しでも軽減したい、少し広い居室を得て仕事したい、毎日通勤・通学しなくて良いなら利便性優先ではなく密を避けて静かな環境で生活したいといったさまざまな“コロナ禍での住み方に関する要望”が顕在化したともいえるだろう。

 ただし、実際にこのようなニーズに即して住み替えたという人はもちろんいるものの、かなり少数にとどまっていたことも事実だ。

 国交省が2021年3月に公表した「令和2年度テレワーク人口実態調査」によると、コロナを理由として転居を検討した人の割合は、実際に住み替えた人が2%で、転居を検討したがさまざまな理由によりまだ実施していない人を含めても13%程度にとどまり、残りの約86%はコロナをきっかけに転居を検討してはいないと回答している。

 このように、コロナ禍においてもどうにか現状の生活を維持したいと考える人はいまだ圧倒的に多い。だが、コロナの長期化および感染拡大に歯止めのかからない状況が今後も続けば、住宅および住環境を変えたいという潜在的な需要が徐々に掘り起こされる可能性は高いのではないか。