この激流を生き残るために、企業が本当にほしいのはシニアではない。変化をいとわぬ柔軟性と、新しいテクノロジーを貪欲に自分のものにしていけるのは若い世代だ。そのうえ比較的、給与を低く設定できるのだ。シニアより若手がほしいのは当然だ。

 定年が70歳にまで延びることは、企業にしてみたら「本当はいてほしくない人」「そろそろ出ていってほしい人材」をさらに抱えることになる。本来、生き残りをかけてうんとコスト・パフォーマンスの高い若い人材がほしいのに、追い出せないシニアのせいで採れないジレンマを抱える――後に詳しく定義するが、定年とは「本当はやめたくない人をやめさせる」ためのシステムなのだ。

定年後に社外で新天地を見つけるのは至難の業

 それなら転職、あるいは早期退職して再就職に活路を見出そうとするシニアの方も多いかもしれない。しかし、現実は甘くない。求職者1人につき、何件の求人があるかを示した「有効求人倍率」は直近の2021年5月、1.09倍だった。2019年は1.6倍で、それまではリーマン・ショック直後の2009年からほぼ右肩上がりだったから、突然の大きな落ち込みを見せた。理由はもちろん、新型コロナウイルスの感染拡大だ。

 しかし、人材紹介をしている私の会社には、企業から常時1000件ほどの求人案件が届いている。確かに1.09倍は低い水準だが、リーマン・ショック直後の2009年は0.47倍だったことを考えると、やはり求人数はあるにはあるわけだ。

 甘くないのは、その内訳だ。雇用対策法によって、求人に年齢制限を明記することは禁止されている。ただし表立っていないだけで、業者である我々には、あくまで「希望」として、企業が求める年代が内密に明示される。

 私の会社に毎年1000も届く求人案件のうち、60歳以上を希望する企業はゼロである。50代に下げたとしても、10%にも満たない。企業のほとんどが20代、30代、ギリギリで40代の求人を希望している。つまり、企業が人材紹介業を通して探している案件は、若手から中年層を希望するものが圧倒的に多いのだ。