利潤追求の危うさを象徴する
戦後の農業政策の失敗

 たとえば、戦後の農業基本法は、個々の農家を一つの経営単位と考えて、一事業所や一企業と同じ位置づけにしたのが失敗の原因だという。農業の生産性向上には寄与したかもしれないが、一戸の農家を生産単位として、工業部門における企業と同様に競争させたために、規模の経済が働く割合があまりにも違い(競争力が違い)すぎて、工業部門に負け、人材や資金が獲得できず、農業自体が衰退する結果となった。

 これは政府の農業基本法の誘導の失敗であり、農業は一戸ではなく、農村まるごとを独立した一戸の生産単位として考えるべきであったと結論づけている。

 医療については、よく議論される「最適な医療費はGDPの何パーセントか」という問題設定自体が間違っており、医学的見地から望ましい医療制度はどういう性格であるべきかを考え、そのような医療制度を公正かつ効率的に運営するためにはどのような経済的、経営的制度が必要かを導き出すという順番であるべきだと宇沢は考える。医療を経済に合わせるのではなく、経済を医療に合わせるべきだと言う。

 コストについては、医師が医学的観点から最適な診療行為を選択したときに、実際にかかった費用がそのまま、その医師の所属する医療機関の収入になっていなければならないし、医師の報酬は、大部分は固定給的な性格をもち、出来高払い的な性格はできるだけ抑えることが必要だともいう。

 社会的共通資本の領域に、その制度的要因を無視して、政府によって他の産業と同じ競争原理を持ち込んだり、中途半端に利潤目的を併せて持たせようとしたりすることが、結局種々の問題を生むというのである。

 そして、地球温暖化については、2000年の段階でこのように語っている。

「世界的な視点でみるとき、二十世紀の世紀末を象徴する問題は、地球温暖化、生物種の多様性の喪失などに象徴される地球環境問題である。とくに地球温暖化は、人類がこれまで直面してきたもっとも深刻な問題であって、二十一世紀を通じていっそう拡大し、その影響も広範囲にわたり、子供や孫たちの世代に取返しのつかない被害を与えることは確実だと言ってよい」