社内外で、自社の状況を把握して、もっとも筋の良さそうな方法を立案してくれる人に任せようとする。しかし、誰がもっとも筋が良いか、これまた正直よく分からない。占いのようなものである。とにかく、このような方法でこれまでは対応してきた。
さらに、ここまできてもっと困ったこととして厳然としてある悩みは、そのような新ビジネスでの価値創造に対して、心からの興味が湧かないということである。もちろんプロとして、それなりにもっともらしく自社ビジネスの優位性や将来のビジョンを語ったりはするが、本心は「それができてもうかれば株主も喜ぶだろうが、本当のところ、一体何がうれしいのだろうか」と思う自分がいたりするのである。旧式の、1000件に営業して何千万円の売り上げを達成したといった高揚感に比べて、ネット上で完結するビジネスではそもそも人の顔も見えない。
すでにこのような状況であったところへ、若々しくみずみずしいアスリートたちが活躍する姿を見て、また旧世代のトップアスリートたちが残念ながらもろくも敗退していく姿を見て、そこに自分を重ね合わせることになったのである。
こうした感慨を持った経営者が、今後、具体的にどのような道に進むのかといえば、以下の三つが考えられる。
1)完全に引退する
2)重要な意思決定の場面から外れ、補佐役に回る
3)後進の人物を決定し、育成に傾注する
引退がおそらく一番よい。ところが、取り巻きは以下のように言って身を引かせない。「技術は、しょせん技術にすぎません。そんなことは得意な奴に任せておけばよいのです」「今ちょっとブームになっているだけです。事業の王道は変わりません」「引退とは、何をおっしゃいます。社長には経営の本質を見抜く洞察力があります。個々の事業の成否を超えた、将の将たる大きな方向付けのお仕事をしていただく必要がございます」
まあ、取り巻きがそう言うのは、そう思っているのが半分、あとの半分は経営者が代わったら自分の立場が危うくなるので、そう言っているにすぎない。とはいえ、経営者はそうまで言われると、やはり悪い気はしない。「やっぱりそうかな」などと居座る気持ちが湧いてくるのである。
後進に任せようと、一部の仕事を次の人にやらせようとする者もいる。ただ、後進の人も、全面的に任されたわけではないから、意思決定に必要な情報の全てにアクセスできない。さらには、初めてのことであるがゆえに、そうそううまく事態をコントロールできない。周りもどこまで後進の人の言うことを本気で聞いたらよいか分からない、ということで、なんとなく「今ひとつ頼りない」といったような雰囲気になる。
そうすると、経営者はますます「やっぱりオレがいないとあかんな」と言いだしたりして、まだまだやりたい気持ちが出てきて、取り巻きも「おっしゃる通りでございます」と応じる。そして、経営者は居座りのほうにかじを切る。
居座り経営者に必要な
勇気ある決断とは
アスリートが世代交代するのは、試合に負けるからである。同じルールで公平なジャッジのもとに若い人と戦って負けるから言い訳が出来ない。経営者にもそういう体験が必要なのである。本当に自分はもう無理だという体験、「もう自分は主役じゃない」という実感。
たとえば、プロの機関投資家やアナリストに、こてんぱんに議論でやりこめられる経験や、業界イベントなどで若手のバリバリの経営者と「ガチ」の対談といった体験ができれば、明らかにもう自分は主役ではないことが実感できる。しかし、周りが気を利かせて、こうした機会があっても、経営者が決して敗北感を味わわなくて済むよう上手にアレンジしてしまう。