パンクは、「プロの音楽」に対する
カウンターカルチャー(対抗文化)だった

 パンクが当時の音楽シーンに一大センセーションを巻き起こしたのは、それがいわゆる上手な「プロの音楽」に対するカウンターカルチャー(対抗文化)だったからです。

 それがカウンターでありえたのは、パンクも人間の欲求から生まれているからです。それは、何かを創造したいという欲求です。

 すべては工芸の思考である「自らの手で、何かを創造したい」という欲求にある。その意味で工芸とパンクはイコールなのだと思います。パンクはよく「演奏が下手」とか言われますが、欲求を大事にしているから、演奏が上手いか下手かは関係ないわけです。

 アメリカ生まれのアート・リンゼイというミュージシャンをご存じでしょうか。

 彼は「ギターの弾けないギタリスト」として知られています。彼は一九七〇年代末から八〇年代初めにかけてニューヨークで「DNA」というバンドをやっていましたが、このバンドが面白いのは、ギターを弾くアート・リンゼイはギターを弾けず、ドラムを演奏する森郁恵はドラムを演奏したことがなかったことです。

 彼らもまたパンク・ロックに影響を受けていました。

「楽器が弾けなくたって音楽はできる!」

 これはまさに既存のコード(規範・枠組み)の破壊です。世間一般のコードにとらわれず、既存のコードを壊して、自ら新しいコードを創造しているのです。

 これからのビジネスに求められることも、これと同じではないでしょうか。

 つまり、既存の価値観や慣習にとらわれずに、自分の中の「何かをつくりたい」という欲求に忠実に、とにかくやってみることで、世の中に新しいコードが生まれるのです。

細尾真孝(ほそお・まさたか)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。