「年齢の数だけ履歴書を出せ」
女性の場合、さらに門は狭い

 地方の放送局で経営戦略室の次長まで務めた林田美紀さん(59歳、仮名)は、まもなく定年を迎える。ずっと中枢にいたが、メディアは古い体質の男社会で、紅一点で頑張ってきた林田さんにはこれからのことを相談できる相手もいなかった。

 報道番組制作を目指して入社したが希望と違う部署に配属され、期待した最初の異動でも人事部に配属となり、正直がっかりしたのが今でも記憶に残っている。だが、ちょうどその頃、立て続けに子どもを2人出産し、時間が不規則な現場ではないことが、かえって良かったのかもしれないと今ならプラスに捉えることができる。

 子育て中、いずれは制作の現場へと思いながら、管理の仕事に真面目に取り組んできた。現場への異動のチャンスはなかなか回ってこなかったが、管理の仕事も面白くなってきて、男性の中でそれなりに出世の階段を上がってきた。数年かけて練りに練った企画が通り、局の記念イベントの責任者も務めた。長年希望し続けた番組制作の部門に異動がかなったのは50代に入ってから。だが、すでに管理職の立場にいた林田さんに与えられたのは、制作の現場ではなく管理の仕事だった。

 そろそろ定年が見えてきて、「結局、現場には行けなかった」と林田さんは笑う。地域の要である放送局で役職者だった林田さんが、セカンドキャリアに選んだ道は「会社の外」だった。65歳まで会社に残ることもできたが、新しいことに挑戦しようと転職活動をスタートさせた。シニアの転職が厳しいのは知っている。そんなに甘い世界ではないのは承知の上。だから条件面も謙虚になった。

 だが、予想以上に現実は厳しかった。これまでの経験や実績よりも、60という年齢ではじかれる。シニアの転職では、「年齢の数だけ履歴書を出せ」と言われるが、女性の場合、さらに門は狭い。

 中途採用を行う企業が求めるのは、自社にない知見を持つ人材だ。だから自分の「売り」を見つけ、それをアピールする力が求められる。シニア女性の転職は、男性シニア以上に大変だ。