ただ、「ベンチャー企業の将来をそもそも正確に読み当てられない」とか「景気によって大きく業績がぶれる企業について、将来のキャッシュフローは読みにくい」ということは現場でよく見られるシーンです。結局は、「とりあえずPSRでしか判断できない」ということになってしまうわけです。

 利益重視のプロ投資家の中には、「PSRはバリュエーションではない」という人もいますが、PSRを使うシーンを見かけたら、状況に合わせてプロはバリュエーションを使い分けていると考えておけばよいかと思います。

グローバル企業比較や買収時の評価に欠かせない
EV/EBITDA

 マーケットアプローチで紹介するのは最後となりますが、EV/EBITDAです。

 EV/EBITDAは「イーブイ・イビットディーエイ」と発音します。

 EVは企業価値である「Enterprise Value」の略で、株式時価総額と有利子負債を合計した金額がEVとなります。

 また、EBITDAは「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization」の略で、金利・税・減価償却・のれん償却前利益と呼ばれます。ざっくりいうと、営業利益に減価償却などを足したものです。

 EV/EBITDAは、どのようなときに使われるのかというと、以下のようなケースです。

・同業種のグローバル企業の比較
・買収者が買収対象の投資回収を検討する際

 最近でこそ、日本でも会計基準の一部でIFRS(国際財務報告基準)が採用されたりしてきてはいますが、会計基準が異なる国に上場している企業同士を比較するのは問題が残ります。

 たとえば、PERは税引後利益の当期純利益を使用しています。減価償却の扱いや税率が異なると、PERの水準が変わってしまいます。

 こう考えるとPERは同じ業種に属する企業でも、A国の決算ルールで開示をする企業とB国の決算ルールで開示をする企業を比較するのには向いていないことになります。そこで、税率や会計制度が違っても比較しやすいように使用されているのがEV/EBITDAなのです。

 グローバル株式に投資をするような投資家であればEV/EBITDAは必要でしょうが、個人投資家であればあまり使う頻度は高くないといえるでしょう。

 また、EV/EBITDAは企業買収をする際に使われるバリュエーションでもあります。

 たとえば、買収企業が被買収企業の株式を全部買い取る場合、借り入れも引き受けることになり、買収時の株式時価総額と債務の合計がEVとなります。EBITDAは営業によるキャッシュフローに近い概念であるので、EV/EBITDAでは買収するのにかかる費用等を何年分の営業キャッシュフローで回収できるのかと見ることができます。

 ただし、5倍はよくて7倍はダメなのかという議論には解が出ません。もちろん倍率が低いのに越したことはありませんが、基準がないので判断がつかないのです。

 こうした点でも、EV/EBITDAは個人投資家にとってあまり必要がないバリュエーションといえます。