簡単に使えるが
本当は曲者のPSR

 つづいて、PSRについて見ていきましょう。

 PSRとは聞きなれない人もいるかと思いますが、「Price to Sales Ratio」の略で、以下のように算出します。

 PSR=株価÷1株当たり売上高 ……(C)

 この式を見て、「おや?」と思えれば、バリュエーションの本質を理解しているといえるのですが、このPSRにはバリュエーションの基礎となる利益やキャッシュフローが見当たりません。

 もちろん売上高から経費を除いたものが利益であり、投資に関する支出や減価償却を考慮したものがキャッシュフローとなっていくので、売上高は利益やキャッシュフローの源泉であるのですが、売上高だけであればバリュエーションとしては不十分といわざるをえません。

 そのような売上高をバリュエーションとして用いるPSRは、主に以下のようなケースで使われます。

・ベンチャー企業など、事業構築中で投資が先行し、全社で利益が出ていない企業を評価するケース
・景気サイクルの中で、ときおり当期純損失、つまり最終赤字になる企業を評価するケース

 このように、PSRは利益が安定的に出ていない企業に使うことが多いです。

 投資経験が長いプロの中には、米国のドットコムバブル時に、利益が出ない状態でたくさんのIT企業が上場し、そのときの評価でPSRを使っていたことを苦々しく思い出す人もいます。

 PSRは、株式市場に過熱感があり、赤字企業が上場することが多くなるとよく使われるバリュエーションの一つともいえます。したがって、株式市場でPSRのバリュエーションが使われ出すと、相場転換のサインだという人もいます。

 また、景気敏感株についてPSRが使われることがあります。

 それは、景気がよいときには利益が出て、景気が悪化すると赤字が出る企業の場合には、利益がぶれて、赤字になると純資産(株主資本)も棄損するので、PERもPBRもうまく使えないという事態が発生するからです。そうなると、利益そのものや利益が影響を与えるバリュエーションは使えないことになり、売上高を使うしかないということになります。

 利益が出ていない状況で投資をしてはいけないということではありませんが、PSRを使うのであれば、利益が出るのはどのような条件が揃ったときかを考える必要があります。また、そのときにどの程度の利益が出るのか、利益率はどの程度なのかを合わせて考えてみる必要があります。

 そうしたことを考えていくと、利益が出ていない会社の場合には、会計上の利益ではなく、フリーキャッシュフローを前提としたインカムアプローチで理論株価を算出するというのが正解です。