家計資産の停滞が示す「アベノミクスの限界」、株高の恩恵が日本で広がらない理由菅首相の交代は、アベノミクスを検証する好機(写真は総裁選で新総裁に決まった岸田文雄氏と前総裁の菅義偉氏) Photo:Carl Court/gettyimages

アベノミクスの総括
生まれなかった好循環

 菅首相の交代は、アベノミクスを検証する好機となる。自民党の新総裁となった岸田氏は、金融政策で名目成長率を引き上げることに主眼を置くリフレ政策を志向していないようだ。ただ、近々予定される衆議院選挙において、代替策を説得的に提示するためには、アベノミクスの総括は不可欠だ。

 アベノミクスは、成長と物価を狙い通りに引き上げることに失敗した。導入当初こそ大規模な金融緩和と行き過ぎた円高の是正で企業利益や株価、人々のセンチメントを一時的に押し上げたが、その勢いは続かなった。

 長続きしなかったのは、企業利益の改善が家計を潤し、消費など内需の活況が企業収益をさらに押し上げるという好循環が生まれなかったためだ。その最大の原因は、政府が春闘に対して異例の介入をしたにもかかわらず、賃金の停滞が続いたことにある。一方で、社会保険料の引き上げは、目立たないかたちで続き、可処分所得はむしろ低下した。

 消費が伸び悩んだ背景として、もうひとつ無視できないのが家計資産の停滞だ。5年に一度実施される全国家計構造調査によると、2019年の全世帯の平均純資産(金融資産+住宅・宅地資産―金融負債)は、2830万円と2014年に比べて3.5%も減少した。リフレ政策による株高や不動産価格の上昇は、家計資産への追い風にならかったようだ。