デザイナーの役割は本当に変化しているのか

「『デザイン経営』宣言」から3年、デザインとビジネスの関係を変えたキーワードとはアートディレクター/クリエイティブディレクター。HAKUHODO DESIGN代表取締役社長。多摩美術大学教授。TCL(Tama Art University Creative Leadership Program)エグゼクティブスーパーバイザー。
1985年多摩美術大学美術学部卒業後、博報堂に入社。2003年、デザインによるブランディングの会社HAKUHODO DESIGNを設立。様々な企業・行政の経営改革支援や、事業、商品・サービスのブランディング、VIデザイン、プロジェクトデザインを手掛けている。
2015年から東京都「東京ブランド」クリエイティブディレクター、2015年から2017年までグッドデザイン賞審査委員長を務める。経済産業省・特許庁「産業競争力とデザインを考える研究会」委員。
クリエイター・オブ・ザ・イヤー、ADC賞グランプリ、毎日デザイン賞など国内外受賞歴多数。著書・共著書に『幸せに向かうデザイン』、『エネルギー問題に効くデザイン』、『経営はデザインそのものである』、『博報堂デザインのブランディング』など。 Photo:ASAMI MAKURA

――企業の中に、CDO(Chief Design Officer=最高デザイン責任者)を置く動きもじわじわと広がっています。

 これまでのデザイナーは、ビジネスプロセスの川下で「モノのカタチをつくる」役割を担うのが中心でした。しかし、モノからサービスへという大きな潮流の中で、サービスやソフトもデザインできると言えなくてはならなくなっています。そのためには、ビジネスプロセス全体を広く見渡す必要がある。こうした要請から、商品開発レイヤー、事業開発レイヤー、経営レイヤー……へと、川上方面にどんどん役割が広がっている状況です。それに伴って、会社全体の方向性やビジョンといった経営の重要な位置にデザインが置かれるようになっています。

――こうした変化に対して、デザイナー側はどのような課題意識を持つべきでしょうか。

 経営のダイナミズムに関心を持つデザイナーもいれば、緻密でスタティックな本の装丁に情熱を燃やすデザイナーもいるでしょう。それは個人の価値観ですから、デザインが包含する広い領域の中で、自分に合った場所を見つければいいと思います。いずれの場合もデザイナーに求められる基本のスキルセットは変わりません。ただし、アウトプットする領域に合わせた経験値の底上げは絶対に必要です。

 そして、それはどんな仕事からでも可能です。デザイナーが扱うあらゆる仕事において、クライアントの期待値は「ビジネスをどう成功させるか」です。目の前の仕事が、一見経営とは遠く離れたチラシのデザインだったとしても、そのチラシがお客さんの手に渡ってどう機能すればビジネスの成功につながるか、という本質まで考えれば、さまざまな問い直しが発生します。「ビジュアルの方向性はこれでよいのか」で済む場合もあれば、「そもそもチラシという手段でいいのか」という問いが必要になることもある。地道な思考を通じて少しずつ経験値を上げていくことで、その先にさまざまな可能性が広がっていきます。