デザインの重要性は分かっていても、変われない経営者へ

―― 一方で経営側ですが、デザイン経営に興味はあるけど、センスにも自信がないし、デザインってなんとなく苦手……という経営者もいるのではないでしょうか。

 それはありますね。そういう方は、ぜひ『これからのデザイン経営』を読んでいただきたい(笑)。そして、もし社内にデザイナーがいるなら、新たな役割を担わせてみてほしいと思います。外部のデザイナーと新しいプロジェクトを始めるのもいいですね。取りあえずのテーマとしてはSDGsやESGのような、社会的に取り組まなければいけないけれど、企業として経験のない新たな課題にデザインを掛け合わせてみる、という方法が導入としてスムーズだと思います。

 ただ、経営トップは大局的な視点を持つ方が多いので、いざ話せばスッと分かってもらえることが多いんです。一方、トップを取り巻く経営層とか、実務に追われるビジネスパーソンは、理念とかの前に、会社最適、業務最適の行動を取りがちなので、かえって手強い。そういう人には、ちょっと立ち止まって感覚を開放し、自分の内部から立ち上がる欲求に素直に耳を傾ける機会を持ってほしいと思います。そして、「自分が売っているものは、本当に心から自分も欲しいと思えるものだろうか」と自分に問い掛けてみてほしいのです。

――自問はなかなか難しいですが、そこにデザイナーとの対話を介在させれば、新たな答えが見いだせるのではないかと思います。

 そうですね。デザイナーは常に「生活者にとっての価値や魅力」にフォーカスするので、経営側の人たちがビジネス的に正しい道筋だと信じていたことが、生活者側から見るとちょっとズレている、ということは往々にしてあります。

――ビジネスを語る共通言語は持っているけれど、課題解決へのアプローチとして異なる方法論を持つ者同士の対話は、価値創造のトリガーとなります。デザイナーには経営者の創造的な対話の相手となり得る可能性があると思います。

 抽象から具体を生み出すというのが、デザイナーが最も得意とするスキルです。経営者が抱いている抽象的な理念や思いを総合的にそしゃくしてカタチにするという意味で、まさに良きパートナーになれると思います。また、現在だけでなく未来や過去も視野に入れ「時間軸を広げる」という観点と、自社や業界だけでなく生活者や世界までを見渡して「空間軸を広げる」という2つの観点で、視野を広げる役割も果たせると思います。

 結局、大事なのは「それって本当?」と常に問い直すことなんです。それは本質的か、その解像度は適切か、意味を正しく表現できているか――。こうした視点から常に問い直していくことが経営には必要だと思います。