「デザイン経営」をより社会に広げるために

――デザインの理解・活用を広げるためには、社会のシステムも変えていく必要があると思います。例えば教育などに期待する部分はありますか。

 デザインを推進する立場としては、ぜひ初等教育でもデザインを教えてほしいと思っています。ただ、文部科学省の「総合的な学習(探究)」にせよ、国際的に提唱されている「21世紀型スキル」にせよ、中身を見てみると「協調」「創造」といったキーワードがちりばめられていて「それって、ほぼデザインでは?」とも思うんですよね。「デザイン」と銘打たれていないだけで、今社会が求める能力は広義のデザインに含まれるものが多く、実態として教育の中にどんどんデザインが組み込まれるようになっていると思います。

「『デザイン経営』宣言」から3年、デザインとビジネスの関係を変えたキーワードとはPhoto:ASAMI MAKURA

 それが高等教育にあまり接続されていないのは残念な部分です。私は今、母校の多摩美術大学の教授も務めているのですが、美大はまだ「小さい頃から絵が好きで……」「アニメーターに憧れていて……」みたいな人だけが行く場所だと思われています。大学側からも積極的に「社会課題解決もデザインです!」と発信して、デザインの概念を拡張しなくてはいけません。現実の変化が外部になかなか伝わらないのがもどかしいですね。

 リカレント教育の領域では、昨年内閣府から出された「成長戦略実行計画」に、デザイン教育の重要性が盛り込まれました。デザインがビジネスに必須の素養、とされる時代はもう到来していて、今後もこの流れは加速すると思います。

――デザイン経営を広げていくために、今後どのような取り組みを?

 セミナーなどを通じて経営者層に向けてデザイン経営を語っていく活動は引き続きやっていきたいと思っています。

 また、昨年は多摩美術大学で、ビジネスパーソンがデザイン経営を学べるプログラムとして「多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム(TCL)」がスタートしました。現在、20代から60代まで、そうそうたる企業で活躍するビジネスパーソンが学んでいます。テーマはデザイン経営ですが、そこは美大ですから、手を動かして絵を描くような授業もあるんですね。すると、創造する喜びが発露していくのが分かるんです。普段商社でバリバリやってる人が「この週末は美術館に行きました」とうれしそうに報告してくれたりして。

 あくまでビジネスに活用できるスキルを身に付けることを第一義とするプログラムですが、創造に関わることそのものが、個人の解放、これまで知らなかった自分を再発見することにもつながります。そういう意味でもデザインの果たす意味は大きいことを改めて感じていますし、デザインを理解する人が増えれば社会は変わる、という確信を強めています。