「ミスター・サロンパス」と呼ばれた久光製薬の中興の祖、中冨正義氏が亡くなってから、この11月でちょうど10年が経つ。孫の一榮氏が率いるいまの久光の経営を、草葉の陰からどんなに気を揉んで見つめていることだろう。
大枚を叩いてオフィシャルパートナー契約を結んだ東京五輪・パラリンピックが、うたかたの盛り上がりで終わったこと。あるいは、「サロンパスホット」の製造過程で医薬品医療機器法に抵触する省令違反があり、鳥栖工場が8日間の業務停止処分を受けたことなどは、「遺憾」な事象ではあるとはいえ、極論すれば一過性の問題である。
より深刻で根深いのは久光という会社から、成長を期待させるタネも、安心を保障するプロダクツも、医療や社会を変えようとするビジョンも、すっかり見当たらなくなったということのほうだ。残念ながら現行の延長線上では、中・長期にわたる低迷を予想せざるを得ない。実際、株価も「正直」な反応を見せる。景気変動の影響を受けにくいディフェンシブ銘柄の有望株として、株価が1万円近くまで高騰したのも昔。足元では4000円台前半まで下落し、なおも下値を探ろうとしている。自己資本比率が80%を超えるという安定した財務体質、緩やかながらも毎年増配を続ける配当政策にもかかわらず、市場関係者の心はすっかり離れてしまった。