男性以上に「やりがい」を求めてきた
仕事がなくなったときの喪失感は大きい
「やっぱり、若い男性のほうがいいんです」
食品メーカーの研究所で課長職にある瀬川夕美子さん(57歳、仮名)は、悔しさを口にする。
工学博士の肩書を持つ瀬川さんは、研究者として長年取り組んできた技術をもとに、画期的な製品を開発した。研究者ではあったが、製品化にあたっては、パートナー選びから、マーケティング、商品の企画設計、量産体制の検討、販路開拓まで何でもやった。
技術を商品化して世に送り出すまで、さまざまな人の声を聞くことができ、それをまた研究開発に生かし、毎日が勉強で楽しかった。
筆者が最初に彼女に出会ったのは、定年が見えてきて、彼女自身これからどうしていくのか悩み始め、ヒントを見つけに筆者の主催するセカンドキャリア研修に参加したときだった。
定年延長の可能性もある中、ゼロから生み出した事業を会社に残って自分の手で大きく育てる道はないのか。あるいは、ベンチャー企業として会社の傘下で、彼女自らビジネスのかじ取りをしていく道があればどれほど理想的だろうと、彼女と話しながら考えていた。
それからしばらくして、瀬川さんから連絡があった。会社が事業の可能性に着目し、本格的にビジネスとして大きく育てる決断をした。ついては責任者を、瀬川さんより若い男性に引き継ぐようにと指示があったとのことだった。
「今後、女性でシニアの私は“外される”可能性がとても高いわけで、こんな形で弾き出されるかと思うと、全くもってやるせないです」。瀬川さんの大きなため息が聞こえてくるようだった。
確かに、これから伸ばしていく事業の責任者に、定年を迎えるシニアを任命することは、たとえ男性でも難しいのかもしれない。事業を生み育てるのは我が子を育てるのと同じで、「最後まで自分の手で」と思っても、会社組織の中では難しい。
女性に限らず、多くの男性たちも同じ思いをしてきただろう。だが、時に「家族を養う」という大義名分で自分を納得させながら働いてきた男性と違い、特にパートナーのいる女性の場合、仕事に男性以上に「やりがい」を求めてきたのではないだろうか。だから、その仕事がなくなったときの喪失感は思いのほか大きい。