日本政府が目標とする2050年のカーボンニュートラルを実現するための目玉対策としているのが、2兆円の「グリーンイノベーション基金」だ。同基金は、財務次官からバラマキ政策の一例として公然と批判される一方で、「予算規模が他国より1~2桁少ない」と真逆の指摘もなされている。特集『脱炭素地獄』(全19回)の#7では、同基金が出遅れた日本の環境技術を復活させる起爆剤になれるのかを徹底検証する。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
東芝が起死回生の一打として注力する
次世代太陽光が「政府次第」という頼りなさ
経営の混乱が続く東芝――。その混乱の原因は、物言う株主(アクティビスト)に成長戦略を納得してもらえないことだ。だが、東芝にはアクティビストを黙らせられるかもしれない「秘策」がある。
成功すれば株価が上がり、経営者に対する株主の支持率が急上昇し、アクティビストも納得して株式を売却するであろう夢の技術――。それが次世代のソーラー発電ツールとして期待が集まる「ペロブスカイト太陽電池」だ。
東芝にしては珍しいことだが、前のめりに技術の将来性を猛アピールしている。「世界最高のエネルギー変換効率を実現したフィルム型ペロブスカイト太陽電池を東京都23区内の建物の屋上と壁面の一部に設置すれば、原子力発電所2基分の発電が見込めます」(東芝公表資料)――。
東芝の技術レベルや50年までにカーボンニュートラルを目指す政府の方針などを踏まえれば、鼻息が荒くなるのも理解できる。
フィルム型ペロブスカイト太陽電池は軽いため、従来のソーラーパネルでは不可能だったビルの壁面などにも設置できる。つまり、一般的に「規制緩和で荒廃農地の利用を促進しないかぎり、国内に発電適地はもうない」とされる太陽光発電に新たな可能性を開くものなのである。
かつてソーラーパネルはシャープ、京セラ、三洋電機の牙城だったが、2000年以降、中国メーカーにシェアを奪われてしまった。ペロブスカイト太陽電池には、シェア奪還による日本の環境技術の再興という象徴的な意味がある。
しかも、主要な材料であるヨウ素は、日本が世界シェア30%の生産量を占めている。エネルギー安全保障や経済安全保障を重視する現在の政府・与党にとってはうってつけの技術なのだ。
しかし、である。ある東芝関係者は「同太陽電池の実用化は経産省次第だ」と言ってはばからない。一体どういうことなのか。