主要国政府による環境補助金の積み上げと、金余りを背景とした巨額マネーのSDGs(持続可能な開発目標)・ESG(環境・社会・企業統治)投資への流入で、資本市場はさながら「グリーンバブル」の様相を呈している。過熱する環境バブルでは、地道に、実直にビジネスを展開しているだけでは成長への切符をつかみ取れない。特集『脱炭素の衝撃 3000兆円の衝撃』(全12回)の#2では、ブームに翻弄される企業につけ込むファンド・コンサルティング会社の暗躍を追う。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
2000万円で調査を売り込み
グリーン祭りでコンサルが稼ぐ!
「このESG(環境・社会・企業統治)評価機関による評価が悪いですね。2000万円で原因調査をしませんか?」
二酸化炭素の排出量が多い重化学工業界に身を置く企業のサステナブル担当幹部の元には最近、コンサルティング会社からこんな営業がしきりにやって来るようになっている。
それもそのはずだ。今、産業界はさながら“グリーン祭り”の様相を呈している。10月26日、菅義偉首相が「2050年にカーボンニュートラル(炭素中立。二酸化炭素の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすること)の実現」の目標を掲げてからというもの、脱炭素といった環境負荷の低減が、経営課題の「本丸」として急浮上しているのだ。
昨年末、日本政府は洋上風力産業や水素産業など、重要な14業種について実行計画を策定し、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」のおおまかな方向性を示した。
もっとも、この実行計画では二酸化炭素を多く排出する「鉄鋼」「化学」業界が蚊帳の外とされてしまった。その上、14業種のうち半分近くの業種については具体的な目標が示されていない。中身が生煮えのまま策定されたこの“即席感”にこそ、日本が脱炭素シフトへ急展開した裏事情が表れていると言ってもいい。
脱炭素はもはや世界的なムーブメントである。欧州に目を向ければ、19年時点ですでに「欧州グリーンディール」と銘打ち、50年にカーボンニュートラルを達成するという目標を提示していた。
先行する欧州の動きにどこまで同調すべきなのか、日本は頭を悩ませてきた。だがここにきて、主要国が新型コロナウイルスの感染拡大で被った経済的打撃を「環境関連ビジネス」でカバーすることで復興を遂げようとする動きが加速した。日本を含めた世界が一気に欧州寄りの政策にかじを切らざるを得なくなったのだ。
いまや、環境保護より自国の経済成長に並々ならぬ執念を燃やしていた中国ですら「60年カーボンニュートラル」を宣言。米国も、大統領にジョー・バイデン氏が就任したことで、トランプ政権下で離脱した「パリ協定」(地球温暖化対策の国際的な枠組み)への復帰を表明している。
しかし、である。なぜ冒頭のようなコンサルが暗躍する“隙”が生まれているのか。製造大国の日本企業には、公害や排ガス規制など環境問題が生じる度に技術革新で課題を乗り越え、世界をリードしてきたという自負がある。今回もまた、日本企業は過去の教訓通りに環境負荷の低減につながる取り組みを地道に重ねてゆけば、脱炭素のハードルをクリアできるのではないか――。
だが、答えはノーである。実は、日本企業には大きな試練が待ち受けているのだ。