「ビジョン追求型」のM&Aを実現しよう
――味の素の「ガーナプロジェクト」とは?

前回お話した通り、今、企業は社会貢献をCSRという枠組みでなく、本業に絡めて考えることが必要とされていると僕は思っています。けれど、社会問題への取り組み、ましてやそれを本業として収益を上げながら解決を目指す、ということになると当然ながら一朝一夕になしえることではなく、また1社の力だけでそれができるかも定かではありません。

 であるならば同じ土俵で戦う他社を「仲間」と捉え、連携して事業運営に当たってもいいんじゃないかと僕は思います。現在、企業のM&Aといえば規模の拡大を目的としたものがほとんどだと思いますが、これからは本業で社会をよくする仲間を獲得するための、いわば「ビジョン追求型」のM&Aにシフトしていく時代なのかもしれません。

 この取り組みを実践している事例として紹介したいのが、味の素の「ガーナプロジェクト」です。開発途上国における栄養不足問題を、持続可能なビジネスを通じて解決することを目的に、味の素はこのプロジェクトを立ち上げました。具体的な商品は乳児向けの離乳食です。

 味の素は、これまで東南アジアなどの開発途上国や新興国進出は果たしてきましたが、アフリカ大陸に戦略的に本格進出するのは初めてのことでした。なので、地域の栄養事情、食文化、経済環境など、いわゆるマーケットに関する、生きた情報はなかったはずです。また、配送網や生産拠点などの事業インフラもゼロベースで構築する必要がありました。考えただけでもしり込みしそうですよね。

 そこで、味の素がガーナプロジェクトにおいてとった策は、従来の枠組みを超え、同業他社やNPO/NGO、政府など、事業進出をするうえで必要な機能を持ったプレーヤーとパートナーシップを網の目のように組む、というものでした。

 たとえばR&D部分はガーナ大学や、INF(International Nutrition Foundation)をはじめとする複数のNPOやNGOと、製造は現地の食品会社Yedent Agro Processing Ventureと、流通はNGOのケア・インターナショナルと、といった具合です。