任せることは任せる、という姿勢が
新しいビジネスを切り拓く

 なぜ味の素は、まるでそのバリューチェーンを分解して他者に託すような、大規模な連携に踏み切ったのでしょうか。その答えは味の素の理念である「地球的な視野に立ち、“食”と“健康”そして、“いのち”のために働き、明日のよりよい生活に貢献する」を実現しようという会社の姿勢にあると、僕は感じます。

 これまで味の素で蓄積された食品加工やアミノ酸栄養にかかわる技術・ノウハウは、同社のみならず、見方を変えれば世界にとっても貴重な財産です。これを、栄養改善が必要とされる国で役立てない手はない、と考えたのがこのプロジェクトの原点――実際にホームページでもそう述べられています。こう考えると、ガーナプロジェクトで味の素がとった戦略は、この絶対的な強みを最大限に生かすためにリソースをそこに集中し、あえてその他の機能は他者に任せる、言い換えれば経営資源の投資効果を最大化しようとしているとも考えられますよね。

 そして栄養改善を行うだけでなく、それを持続的なビジネスとして根づかせるためには、現地に暮らす人の声を聞き、雇用を創出し、彼らに「当事者」であるという感覚を持ってもらうことが必須。味の素は、そのために他社を巻き込んでの推進が欠かせないと判断したのです。もちろん味の素と言えど、一企業ですから、この活動によって収益をあげる必要があります。けれど、これまでのように自社だけですべてを賄うのではなく、他社の強みが生きる部分はあえて任せるという姿勢は協業者にWinを生み出し、現地のコミュニティや顧客にその波紋を広げていくのです。

 ガーナプロジェクトから生まれる製品の本格的な生産・販売は来年以降になるということですが、これまでの地元にしっかりと根づいた活動が、必ずや大きな花を開かせるのではないかと思います。