なお、山城の定義はあいまいですので、ここでご紹介する城には、一般的には平山城と言われているものも含んでいます。
――よろしくお願いします。
まず、“戦国の土づくりの城の教科書”と呼ばれているのが、埼玉県の嵐山町にある杉山城です。それほど大きな城ではありませんが、本丸を頂点に各尾根に曲輪を階層的に設け、入口付近には必ず横矢をかけ、初期段階の馬出しも重ねています。おそらく攻めたとしても理路整然と効率的に弓矢や鉄砲の餌食になったでしょう。
福島県の会津美里町にある向羽黒山城も、ものすごい山城です。山の頂上の本丸から麓まで、まるで迷路のように横堀、竪堀を縦横無尽に巡らし、山の中段も曲輪と堀と土塁を複雑に配置している。城を守っている兵も道に迷うのではないかという複雑堅固な山城です。軍事要塞に必要な要素を全部詰め込んでいて、攻めても生きて帰れる気がしません。
見た目の凄さでいえば、群馬県東吾妻町にある岩櫃城です。太古の昔から信仰の対象となってきた巨大な岩山である岩櫃山に守られた、まさに鉄壁の城で、戦意喪失は間違いありません。
――この険しい岩山は、とても攻められませんね。
しかし、実は城があるのはこの垂直岩盤の上ではなく横なんです。岩櫃山がある側から攻められる心配はないので、その方向は堀をあまり整備していません。しかし、その反対側を見ると、山頂の本丸の周囲には横堀をめぐらすなど、守りが重視されていますし、東側の山麓を流れる吾妻川は堀の役割を果たしています。この岩櫃城ほど、天然の地形を巧みに利用した山城は珍しいと思います。