まずは、アクルーアルがプラスかマイナスかに注目!
林教授 最初の手がかりとして、アクルーアルがプラスかマイナスかを見極めることだ。ここでプラスの会社に狙いを定めるんだ。
カノン アクルーアルがマイナスの会社は、検討する必要はないのでしょうか?
林教授 マイナスの場合でも、キャッシュフローに問題を抱えている会社はある。表のA社のようにね。だが、このような会社の割合は少ないと考えていい。だから、第一段階として、アクルーアルがプラスかマイナスかに注目するのだ。
カノン わかりました。そうすると、この表で注意すべきはB社とD社ですね。
林教授 そうだね。どちらの会社も営業キャッシュフローがマイナスだ。特に、B社は当期純損失(-100)となっている。ひどい経営状態だね。
カノン はい。どちらも運転資本が増えてますね。
林教授 そして、B社は売掛金の増加が目立つね。しかも赤字だ。
カノン 売上代金の回収が滞っているのでしょうね。
林教授 赤字であることを考えれば、そんな生やさしい事態ではないだろう。
カノン どういうことですか?
林教授 頑張って商売してもお金が増えないんだよ。おそらく、社長は商売そっちのけで、毎日お金の工面に奔走しているだろう。経営者がお金を追いかけ始めたら、会社の危険信号と考えていい。
カノン そうなんですね。うちの会社、大丈夫かな……。
林教授 次に、表のD社を見てみよう。この会社が他社と異なる点は、減価償却費を計上していないことだ。減価償却を計上しなければ、その分費用は少なくなり、税引き後当期純利益は多くなる。だが、ふつうに考えて固定資産を使用すれば、その価値は減るわけだから、赤字でも減価償却費を計上しなくてはならない。
カノン そうですよね。
林教授 しかし、D社は減価償却費を計上していない。
カノン どうしてですか?
林教授 経営者はなんとかして、少しでも利益を出そうと思っているからだろう。それと、商品在庫が増えているね。売上が低調で、売れ残りの商品が増えたのだろう。それにもかかわらず売掛金が増えている点も気になるところだ。よってD社の利益の質は悪いと思わなくてはならない。
カノン そんなことまでわかるんですね。
公認会計士、税理士
明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授
LEC会計大学院 客員教授
1974年中央大学商学部会計学科卒。同年公認会計士二次試験合格。外資系会計事務所、大手監査法人を経て1987年独立。以後、30年以上にわたり、国内外200社以上の企業に対して、管理会計システムの設計導入コンサルティング等を実施。2006年、LEC会計大学院 教授。2015年明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授に就任。著書に、『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』『美容院と1000円カットでは、どちらが儲かるか?』『コハダは大トロより、なぜ儲かるのか?』『新版わかる! 管理会計』(以上、ダイヤモンド社)、『ドラッカーと会計の話をしよう』(KADOKAWA/中経出版)、『ドラッカーと生産性の話をしよう』(KADOKAWA)、『正しい家計管理』(WAVE出版)などがある。