日本の国政選挙のタイミングで
ミサイル発射する北朝鮮

 岡田氏の言葉の通り、実は自民党が政権奪取をした2012年の衆院選も公示の3日前、北朝鮮がミサイルを発射すると事前予告をしたことがあったのだ。この時は12月16日が投票日だったのだが、北朝鮮が“人工衛星”を10日以降の午前中に打ち上げると宣言。そのため、野田佳彦首相(当時)が想定される時間帯の遊説の自粛をしなくてはいけなくなった。

 そういう状況の中で、12月8日には藤村修官房長官(当時)が自身の選挙区で「要は北朝鮮のミサイルがいつ上がるかだ。さっさと月曜日(10日)に上げてくれるといいんですが」(読売新聞2012年12月8日)と失言。当時は野党だった自民・安倍総裁から批判されるというようなドタバタも起きている。結局、官房長官が「待ち焦がれていた」北のミサイルは13日、投票日の3日前に発射された。

 このように、北朝鮮がこれまで日本の国政選挙にドンピシャのタイミングで、ミサイルを打ち上げてきたという動かし難い事実がある。

 そこに加えて今回は、自民党総裁選前の9月13日に巡航ミサイル、15日には弾道ミサイル2発が発射されている。セオリーでいけば、衆院選の公示前後にも仕掛けてくると考えるのは当然だ。日本の防衛関係者、安全保障担当者がこのようなリスクを、官邸に報告しないわけがない。これが冒頭で「想定内」と申し上げた理由である。

北朝鮮の巧みな
「熱湯風呂」ネタ的PR戦略

 さて、そこで皆さんが気になるのが、なぜ北朝鮮が国政選挙のタイミングを狙ってくるのかということだが、これはシンプルで、「北朝鮮という国をたっぷり恐れてもらいたい」というPR戦略に尽きる。

 ご存じのように、庶民が飢える中で北朝鮮が巨額の費用をかけたミサイルを日本海に落とし続けるのは、軍事技術に磨きをかけているからだけではなく、アメリカに「北の脅威」を認識させて、交渉のテーブルにつかせるという「ミサイル外交」のためでもある。

 本連載の過去記事『金正恩、実は高度なPR戦略と交渉術を持つ男の真の狙い』の中で紹介しているが、ミサイル発射で国際社会で批判されていた2012年、朝鮮労働党高級幹部が講演の中で、金正恩氏のこんな「名言」を誇らしげに紹介している。

「実は賛成の中で発射するより、反対の中で発射する方が、我々の威力を誇示できる」