リモート時代に生き残れない人が
権力を持つ現役という過酷な現実
とはいえ、これからの時代は「与えられたタスクにあわせて淡々と対応し続ける」のもそれほど簡単なことではない。とくに会社で上司・部下・同僚が顔を合わせて時間を共有する機会が激減し、オンライン会議やメールで仕事をすることが中心になってくると、当人のコミュニケーションの基礎能力が仕事の成果に劇的に影響する。
まず、意味が分からないメールをなんとかしなくてはならない。何について書いていて、そのどの部分に注目している文章なのかを明確にする。レベルの違う事柄についての言及を一つの文章の中に混ぜてはいけない。そして1回で済むメールを2往復以上して、それでも分からないから電話で確認する、といった時間の無駄は無くさなくてはならない。
議事録などの文書の書き方も学ばねばならない。その文書が何を目的としており、どんな背景があり、どんな選択肢を念頭に、何を価値判断基準として認識し、最終的に何が決まったのか。議論全体の流れと方向性を理解しないまま、大きな声を出した人の意見だけを書くのは議事録とは言わない。
要するに、全体の把握と切り分け、および全体のなかのどの領域の何について話している(書いている)かの自覚がない人は、リモート時代には仕事ができないのである。有名企業の管理職の中にも、これができない人は驚くほどたくさんいる。上司が切り分けのできない人物だと、メンバーは途方に暮れてしまう。
また、そういう人に限って直接会って話をしたがる。「顔を見て話したほうが、相手の状況に合わせて質の高いコミュニケーションができるから」などと言うのだが、実際は違う。このような人は、自分の頭の中に全体のマップがなく、判断基準もいいかげんだから、明確に説明できない。ただ、複数の人が好意的に聞いてくれれば、いろいろ話している間に聞き手が協力しあって補足し、どうにかその人が語っている内容を理解するところまでたどり着くことができるのである。したがって、そういう空間を作るためには、リモート会議では難しく、直接的に顔をそろえる会議室でないといけないのである。
リモートで事足りるはずなのに、月曜日の朝一番から、わざわざ会社に行かなくてはいけない……。今回の広告主がビジネスとして提供している、新しいイノベーションのための情報や建設的な情報交換の場といった前向きなことよりも、はるか手前のつまらないストレスに対処しなければならないのが、多くの社員の現状なのだ。その意味でも、「今日の仕事は楽しみですか。」は、やはりちょっと酷だったかもしれない。
(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)