皆何かしら自分を偽装し、ドラマの配役のような人物を演じている

 私自身、「はじめに」で述べたように、「ADHD」という発達障害があったり、うつで休職したことがあったり、Xジェンダーだったりと、通常の人と違う要素がたくさんあります。

 ですが、こんなことリアルの世界でいちいち他人に向かって全部説明なんかしていません。ADHDに関しては、精神科医として人を診る以上、説明しておいたほうがいいと思い、病院の採用面接のときに話をしました。

 でも、「仕事上で何か支障が出ることはありますか?」と聞かれ、「現状は、治療していますし、あまりありません」と応えると、それ以上は全く問われることなく現在に至っています。

 遅刻しやすいとか、ケアレスミスが多いとか、集中力が続かないといったデメリットはあるのですが、内服をきちんとし、自分でつまずきやすいシチュエーションを理解し、気をつけさえすれば遅刻せず、ミスもせず、集中も可能です。

 実際、治療を開始してからは、私はうまく擬態できているようでADHD関連での問題が起こったことは表面上ありません(内心ではかなりアワアワしていることはときどきあります)。

 よく、うつが原因で退職した方から、再就職する際に「それを職場に打ち明けなければいけませんか」と質問が来ることがあります。

 でも、受診でどうしても仕事を休まなくてはならないなどの理由がない限り、私は何もかもを職場に開示することはあまり勧めてはいません(障害者枠就労は除く)。

 どうしてかと言えば、今の社会では言った途端、変に職場が気を遣ってしまった結果、あなたができる仕事からも遠ざけられたりして、チャンスを失うこともあるからです。

 これはいちいち「水虫があるんです」とか「美容整形をしているんです」と公表しないのと同じ。法的にも言う義務は実はありません(保険に加入するときは正直に言わないとダメですが)。

 自分をさらけ出さないことでもし引け目を感じるのであれば、それはあなたが周りの人が皆、全てを正直に明かして正々堂々と生きているように勘違いしているからです。

 でも、実際はそんなことはありません。

 人には誰だって、明かしたくないことがあるし、隠したいことがあって当然ですし、フルオープンにされたら聞いた人のほうがどう対応していいのか困ってしまう個人情報だって多いです。

 これは当たり前のことで、この世の中では、皆何かしら自分を擬態し、ドラマの配役のような人物を演じています

 ある種それは社会人として社会が混乱しないためのマナーです。だから、何かを隠していることを卑下する必要はないし、演じ切っている自分に誇りを持てばいいのです。

 POINT:
 人間の本性はどんなに頑張っても一生変わらないが、ラクになる生き方へ変えていくことはできる。

「自分を根本から変えたい!」と思う人に、知ってほしい残酷な事実バク@精神科医
元内科の精神科専門医
中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく、行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーの道を志し文系に進学する。しかし「カウンセラーで食っていけるのはごく一部」という現実を知り、一念発起し、医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら、勉学とバイトにいそしみやっとのことで卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を専攻したが、医師研修中に父親が亡くなる喪失体験もあり、さまざまなことに対して自信を失う。医師を続けることを諦めかけるが、先輩の精神科主治医と出会うことで、精神科医として「第二の医師人生」をスタート。精神科単科病院にてさまざまな分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は、双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者が多い急性期精神科病棟の勤務医。「よりわかりやすく、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。個人クリニック開業に向け奮闘中。うつ病を経験し、ADHDの医師としてTwitter(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Twitterフォロワー4万人。『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』が初の著書。