岸田首相が茂木氏を
幹事長に選んだ3つの理由

 では、なぜ岸田氏はハレーションを招きかねない人物を幹事長に起用したのか。それには三つの理由がある。

 一つ目は、甘利氏の辞任でぐらつきかねない党内基盤を安定させるためだ。

 実は、甘利氏の後任幹事長として岸田首相や側近が検討した際、もう一人、有力な幹事長候補が浮かんだ。その人物は梶山弘志前経済産業相である。

 梶山氏は、甘利氏が結成した派閥横断グループ「さいこう日本」に属し、岸田体制で幹事長代行に就いていた。菅義偉前首相とも近く、温厚な性格で黙々と職務を遂行する「仕事師タイプ」は官僚からの信頼も厚い。だが、総選挙の公認調整や比例名簿の登載順位などを巡って甘利氏に向けられた党内の不満は強く、「甘利傀儡」と受け止められてしまえば爆発するリスクは低くなかった。

 その点、茂木氏は安倍晋三元首相や麻生太郎副総裁と良好な関係を築き、「党長老や主要派閥ともうまくやっている人物」(自民党ベテラン議員)。12年末に第2次安倍政権が発足した後のキャリアだけを見ても、経済産業相や党選挙対策委員長、党政調会長、経済再生相、外相という重要ポストを着々とこなし、将来の宰相候補の一人とも目される。

「3A」(安倍・麻生・甘利各氏)の一角である甘利氏が事実上失脚したことで、安倍・麻生両氏とのパイプが細ることも懸念される中、その穴を茂木氏に埋めてもらう狙いがあったのは明らかだ。

 茂木氏は自民党の派閥・竹下派(平成研究会)の会長代行だ。総選挙前の53人から46人に所属議員が減少したとはいえ、党内第3派閥をまとめる実力者でもある。最大勢力の細田派(清和政策研究会、87人)、第2派閥の麻生派(志公会、49人)に加え、岸田首相自ら率いる第4派閥の岸田派(宏池会、41人)を加えれば、党内基盤は盤石といえる。

 来年夏の参議院選挙の陣頭指揮を茂木氏に任せるのもそのためで、仮に今回の総選挙のように議席減を招いたとしても主要4派閥を固めておけば、足下をすくわれるリスクは低減する。