「たとえば、起きたときに少しダルさを感じると『自分は重い病気かもしれない』と思い込んで、学校や仕事を休んでしまったり、相手から自分と異なる意見を言われると『自分は拒絶されている』とふさぎ込んでしまったり。ささいなことに過剰に反応して気持ちが低下した結果、職場や知人関係がうまく回らなくなり、最終的に引きこもりになるケースもあります」

 立川氏は、こうした非定型うつ病の症状は、「うつ病というよりも、むしろ双極性障害に近いのではないか」と、持論を展開する。

「非定型うつ病の患者は、ハイテンションのときと気分が落ちているときの、感情の波の幅が非常に大きく、これは双極性障害に近いものです。ただ、非定型うつ病と双極性障害は、気分の波が上下する“きっかけ”に違いがあります。双極性障害の場合、周りの状況に関係なく、定期的な間隔で、なぜかハイになる期間とローになる期間が生まれます。一方、非定型うつ病では、気分の上下の波が一定ではなく、誰かに褒められたり、怒られたりといった対人関係の変化が大きなきっかけとなって、気分が激しく変動します」

 感情の起伏が激しく、その波の変化に対人関係の良し悪しがかなり関与するのが、非定型うつ病の特徴なのだ。

「そのほか、私が臨床の現場で診てきたなかでは、過眠傾向の非定型うつ病患者が特に多かったです。いくら寝ても体が鉛のように重く感じられ、夕方になってやっと起きても、一日を無駄にしてしまった自分を責め、過食や自傷行為、アルコールや他人への依存に発展する事例もあります。また、非定型うつ病は20~30代の女性に多い傾向がありますが、これはPMS(月経前症候群)により、ひと月のなかで気分の波が起きることも影響していると考えます」

リモートワークが
非定型うつ病を重症化

 そもそも非定型うつ病という名称がつけられたのは1959年のことで、最近出てきた病気ではない、と立川氏。

「当時、うつ病傾向のある患者に対する治療法のなかで、効果が高かったのはECT(電気けいれん療法)と三環系抗うつ薬(イミプラミン)でした。しかし、なぜかそれよりもMAO阻害剤という薬によく反応する患者が一定数おり、定形うつには当てはまらないという意味で非定型うつ病と呼ばれるようになりました」

 また、「コロナ禍で非定型うつ病が増えている」という報道もあるが、それは事実とは異なると立川氏は指摘する。

「もともと非定型うつ病の人が一定数いたなか、コロナ禍のストレスにより、生活に支障をきたすほど症状が悪化し、医療機関を受診する患者が増えたという表現が正しいです。したがって、患者数が増えたのではなく、顕在化する患者が増えたといえます。また、精神医学界でも非定型うつ病の認知度が上がり、正しく診断できる医師が増えたことも患者数増加の背景にあります」