株主が「会社分割」を歓迎し、
経営者や銀行が避けてきた理由

 例えば、異なる分野の事業A、B、Cを持つ会社があるとして、この3部門を分割して上場すると考えよう。

 三つの事業を持つ状態では、一定のリスク分散効果が働いて会社は安定する。これは、お金を貸している銀行や社債の保有者には望ましい状態だが、有限責任の下でアップサイドを追求したい株主にとっては不利な要素だ。

 一方、A社、B社、C社に分割して別々に経営すると、大成功する会社もあるかもしれないし、失敗して倒産に至る会社もあるかもしれない。事業A、B、Cの将来のキャッシュフローに対する期待値を一定とした場合、大成功する会社によってメリットを得ることが期待できる株主には好都合で、倒産するリスクを負わねばならなくなる債権者には不都合だ。

 大まかには、債権者が保有する企業価値が低下して、その分株主が保有する企業価値が増加する。もちろん、債権者たる銀行や社債保有者は契約で会社を縛っているので、株主の自由に何でもできるわけではないが、株主は事業分割を歓迎する傾向がある。

 一方、従来の経営者にとっては倒産リスクが小さい複合的な会社の方が自分の保身には好都合だし、会社が大きいことのステータス感もある。A、B、Cの事業には「シナジー効果」(相乗効果)があると説明して、コングロマリットを維持しようとする傾向が強かった。

東芝のコングロマリットディスカウント解消が
単なる「お題目」に思える理由

 ただし今回の東芝の場合、同社の戦略委員会は以下の7点を主なコミットメントだとしている。

・移行チームの立ち上げ
・キオクシアHD株式の現金化と株主還元
・借入金比率の引き上げと自社株買いの実施
・分割会社での海外人材の登用
・事業売却を含む事業構成見直しとコスト削減
・外部企業との提携模索
・ガバナンス強化