もちろん、株主にとってももうかるものになり得るのは前述の通りだ。

 現在、日本が米国に何周か遅れて進めている「ガバナンス改革」も大いに利用できそうだ。

 多くの企業が、多額のキャッシュないしキャッシュ相当の資産を保有しているし、売却できる事業を抱えている。「事業分割でひともうけ!」は、投資家、投資銀行家、経営者の利害が一致する可能性のあるたくらみである。

 経営者個人の価値観が、会社の大きさや安定よりも個人の経済的メリットに傾斜するなら、大いにありそうなことだ。事業分割をうまく使うと、サラリーマン経営者にすぎない人物でも、これまでに期待できた収入よりも1桁大きな報酬を手に入れられるかもしれない。

 かくして、投資家を潤しながら、一般社員と経営幹部の経済格差がより大きく広がるのではないか、というのが「経済的には自然だが、あまり美しくない未来の日本企業の姿」ではないだろうか。

リストラ、コストカット、格差拡大…
会社分割後の社員を待つ「厳しい未来」

 社員にとって、東芝的な事業分割はどのような意味を持つのだろうか。一言で言えば、厳しいものになるだろうというのが、筆者の予想だ。

 それは、前出の東芝の経営委員会のコミットメントが雄弁に物語っている。かつて、不適切会計問題につながった「チャレンジ」の洗礼を受けた東芝社員にとっても、楽な未来ではなさそうだ。

 コングロマリットの解消で分割後の会社は経営的によりリスキーになるし、自己資本比率も下がりそうだ。

 分割後のA社、B社、C社には待遇の差が生まれるだろうし、事業売却もあれば、事業の再編成を理由とするコストカットやいわゆるリストラ(雇用削減)もあるだろう。事業ごと提携先に吸収される可能性もあるし、海外人材の登用(例えば役員)なども一般論としては労働強化要因だ。

 個々の社員としては、自分が「コスト」として目を付けられないように頑張るしかない。