織機の開発に成功し、海外事業が一気に加速
結果、一年かかりはしましたが、西陣織の素材を織り込むことができる、一五〇センチ幅の織機の開発に見事成功しました。これは西陣織の一二〇〇年の歴史の中で初の発明でした。
予想どおり、細尾の海外事業はここから一気に加速したのです。ディオールのニューヨークの店舗では、細尾の西陣織が椅子やソファーの張り地、壁紙などに使用されました。
ディオールの店舗で箔が立体的にきらめく様は、鳥肌が立つくらいに壮観でした。立体的で、多様な素材が織り込まれているという西陣織特有の魅力が、海外に伝わった瞬間でした。
その後も新開発の織機で、ディオールの海外店舗の内装をどんどん手がけていきました。パリから始まり、ロンドン、ミラノ、ニューヨーク、上海、香港、ドバイ、サウジアラビア。銀座や大阪の店舗にも広がりました。現在、世界一〇〇都市一〇〇店舗ほどで使われています。
その仕事の好調を受けて、年に一台ずつ織機を増やしていきました。ほどなく、シャネルからも声がかかりました。シャネルでも、世界六〇店舗ほどで内装に使われています。
さらにいまでは、エルメス、カルティエ、ヴァンクリーフ&アーペル、ザ・リッツ・カールトンなど世界中のハイブランドの店舗の内装に、細尾の西陣織が使用されています。
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。