年金繰り下げは最初から“いつまで”と
決めておく必要はない

 それから、これは勘違いしている人もいるだろうが、年金の受給を遅らせるのに特別な手続きが必要なわけではない。65歳になる3カ月前に日本年金機構から「年金請求書」が送られてくるが、ここで何も手続きをしなければ自動的に受給時期は繰り下げとなる。「いつまで繰り下げる」ということを前もって表明する必要はないのだ。66歳でも69歳でも、自分の好きなときに手続きをすれば良いのである。

 また、支給請求の方法だが、実は2通りの方法がある。ひとつは今までお話してきたように給付額を増額で受け取る方法だ。1カ月繰り下げるごとに0.7%ずつ増額されるので、5年繰り下げると42%増額ということであった。

 そして、もうひとつのやり方は、それまで繰り下げてきた期間の分をまとめて受け取るという方法だ。

 例えば68歳まで3年間繰り下げしてきたとしよう。もし、その時点で何らかの事情でまとまったお金が必要になった場合は、それまで受け取っていなかった3年分の年金をまとめて受け取ることができる。例えば65歳時点での給付額が月額で15万円だった場合、繰り下げ分の総額は15万円×12カ月×3年=540万円となる。この金額をまとめて受け取ることができるのだ。ただし、その場合は以後の受取額についての割り増しはない。この2つの方法のうち、どちらでも自分に都合の良い方を選べばいいのだ。

 こう考えると、年金の受給というのはかなり融通の利く制度になっていることがわかるだろう。人生では何が起きるかわからない。当初は70歳まで繰り下げる予定だったのが途中で大きな病気をしたり、災害で家が大きな被害を受けてしてしまったりした場合に保険だけではカバーできないこともあるだろうから、そんなときにまとまったお金を手にすることができるのはありがたい。これもあらかじめ決めておく必要はなく、そういう事態が起きた場合にどうするかを選択すればいいだけなのだ。