縦揺れ、横揺れを意識することが創造のきっかけとなる

太刀川 少し『進化思考』の話をすると、さっき細尾君がいってくれた「変異と適応」。これはつまり、変わり続ける仕組みと、それが適切に選択され続ける仕組みの往復ということであり、進化の本質そのものです。生物の話だけど、この往復をひたすら繰り返すのは、生物の進化に限らず文化も産業も同じなんですよね。たとえば、ライトで言ったら、ロウソクも、ガス灯も、電球も、LED電球も目的は全部一緒。同じ目的のために変異的に全く違うものが再発明され、社会の中で適応していく、ということが文明の中で何度も起こっています。

細尾 そうですね。

太刀川 その適応を考察する方法には、解剖と生態を系統と予測という4つの軸があると『進化思考』では言っているんだけど、それぞれが空間の内部と外部、時間の過去と未来に対応しています。その中のひとつ、過去の系譜を引き受ける「系統」が、細尾君の場合はすごく強いよね。伝統工芸で美を探求する、という生まれながらのポジション。

細尾 曖昧ではありますね。

太刀川 みんな「美は、美だよね」みたいな感じにおそらくなっている中で、歴史的に受け継ぐというすごくユニークなポジションだと思うんだけど、その美に対して、どう変異を掛けようとしているのか、というのは聞いてみたいです。

細尾 そうですね。妄想を加速させるとき、僕は「縦揺れ・横揺れ」というのを意識してます。縦揺れとは、まさに時間軸。過去に戻れば戻る分、未来は考えられると思っています。細尾の会社の歴史でいうと333年あって、西陣織の歴史でいくと1200年ある。そして織物の歴史でいくと9000年まで遡れる。暖を取るだけだったら、毛皮や木の皮を身体に巻き付けていたらいいのに、人間は手間ひまかけて糸をつくり、布をつくり、衣服をつくってきた。

太刀川 そうですよね。今の話はまったく進化思考の4つの軸と一致する話だね。そして揺れ、は変異を表している。また歴史を紐解けば布は皮膚の延長なわけだよね。

細尾 有史以来、人と共にあるものを扱わせてもらっている部分において、「美とは何か」「人とは何か」と考えられる可能性が、9000年も遡るとあると思っています。

太刀川 うん、そうだと思います。あるいはもっとだろうね。花が美しさでハチを招くように、生物全体が美を感じている可能性がある。

細尾 もう一つ横揺れというのは、同時代の水平展開というか、横の広がり。たとえば、織物にテクノロジーを掛け合わせることで、先端的な織物ができるということ。ちょうど今、東京大学とやっているのは、UV(紫外線)によって3秒で硬くなる織物とか、有機ELを糸化して1本1本をコントロールするとか、そんなことを研究しています。

太刀川 素敵だな。この縦揺れと横揺れという感覚はまさに進化思考と一致するんですよね。だから冒頭で、体系化されていると言ってくれたんですかね。揺らすことの重要性は、揺らさないと固定観念になってしまうから。「過去からの流れは守らなければいけない。なぜなら過去からのものだから」「中の構造は守られなければいけない。なぜなら、それは十分に検討を重ねられてきたものだから」とかね。

細尾 前例があるから、とかね。