ダイヤモンド編集部ではJR4社で5年後に55歳以上の社員が大量退職した場合に、人件費の構造がどのように変化するのか初めて試算をした。JRにとって大規模リストラは鬼門のような存在で、手を付けずにきた。コロナ禍でも私鉄に比べリストラの歩みは遅い。果たして、大量退職でコストは改善するのか。特集『決算書100本ノック! 2021冬』(全16回)の#14では、意外な結果となった初試算を公開。さらに、JR東海の営業利益を押し上げるカラクリについてもお伝えする。(ダイヤモンド編集部 松野友美)
2期連続最終赤字予想のJR3社
鉄道ジリ貧でもリストラなし
ダイヤモンド編集部の独自試算により、5年後のJR4社の人件費構造が判明した。
JR4社では、55歳以上の社員が単体社員全体の11~29%を占めていて、5年以内に定年退職を迎える。そのボリュームゾーンの大量退職により、JR4社の経営はどうなるのか。編集部が初試算すると、各社各様の意外な結果となった。
試算の対象とした55歳以上の社員が入社したのは国鉄時代の1980年代。87年に国鉄が民営化されると、地域や旅客と貨物で分社化、JR各社へと社員は分散していった。
それ以降、ドル箱路線を抱える東海旅客鉄道(JR東海)や東日本旅客鉄道(JR東日本)、赤字基調の他社という凸凹はあるものの、なんとか日本のインフラを支えてきた。
ところが、そこに新型コロナウイルス感染拡大という異常事態が襲い掛かる。2022年3月期の中間決算で、JR東日本、JR東海、西日本旅客鉄道(JR西日本)は2期連続の最終赤字予想を公表した。
利益率が高い東海道新幹線で稼ぐJR東海は、鉄道利用の回復で営業利益は黒字転換すると予想している。また、最終利益が黒字転換する見込みとなった九州旅客鉄道(JR九州)は、営業利益は赤字から抜け出せないでいる。
そんな苦境でも私鉄と比べると、JRのコストカットへの姿勢には違いが見られる。
JR各社は鉄道の運転手や駅係員、ホテル職員などへの希望退職募集や、資産売却などの思い切ったリストラをしていない。その代わりに鉄道関係のメンテナンス頻度を下げたりする短期でのコスト削減や、駅窓口業務の一部を機械に置き換えるなどの効率化、インターネット予約推進などで中長期目線での構造改革にいそしんでいるのだ。
一体なぜ、短期かつ大胆なコストカットをしないでいられるのか。そこに今回の初試算が関係してくるのだが、意外にも「各社共に大量退職すれば人件費の構造が劇的に改善する」という簡単な結果に終わらず、大きな差が生まれた。
次ページでは、55歳以上の社員大量退職でコスト構造がどうなるのかの初試算を公開。さらに、JR東海の営業利益を押し上げる、「あるカラクリ」についてもお伝えする。