3つの「抜擢問題」は
職場のあちこちで起こっている

「そもそも若手を『抜擢しよう』という発想がなかった」

私の話を聞いて、このように話す人事担当者がいますが、「抜擢していなかった(ゼロ抜擢)」という事実に気づいたというのは大きいでしょう。

気づきがあれば、あとは改善すればいいだけ、という言い方もできます。

「抜擢不足」も同様です。

「ここ1年くらい、リモートワークに切り替わったこともあり、若手リーダー中心の新プロジェクトの立ち上げはゼロだった」
「入社2年目、3年目の抜擢は、考えも及ばなかった」
「部署の最若手にチームの何かを任せるという発想は皆無だった」

このように、具体的に自社や自分の部署、チームなどで抜擢をおこなっていたか振り返るのも有効です。

具体的に「ここが足りていなかった」と気づけば、適切な改善策を講じればいいだけです。

多少やっかいなのが、3つめの「抜擢エラー」です。

「うちは積極的に若手登用しているのに、ちっとも成果が上がらない」
「若手に任せてアイデアを出してもらっても、絵に描いた餅で実現に至っていない」
「こちらがお膳立てした新人向けのプロジェクトも、メンバーが受け身でなかなか前に進まないので、結局、リーダー役の30代を投入することになってしまい、何のための抜擢かわからなかった」
「若い人たちからリーダーを募っても、誰も『やりたい』と手をあげない」

こうした悩みや不満についても、よく耳にします。

しかし、これも心配無用です。

抜擢にはしかるべきプロセスがあり、そこを飛ばしてしまっているために、若手が自発的に動かない(動けない、動きたくない)など、何らかの「抜擢エラー」が隠されているはずです。

いずれにしても、「抜擢問題」があるという事実に気づくことに意味があります

なぜなら、気づくだけで意識的に若手を抜擢する機会はないか考えるようになるからです。

危険なのは企業側が「うちは若手を積極的に登用している」と思っているのに、若手からは「まったく若手が活躍する場が自社にはない」と感じている状況です。このミスマッチをなくすためにも、3つの「抜擢問題」に陥っていないか確認しましょう。

※次回は、「抜擢」の正しいやり方についてお伝えします。(次回は12月15日公開予定)

曽山哲人(そやま・てつひと)
株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO 曽山哲人氏

1974年神奈川県横浜市生まれ。上智大学文学部英文学科卒業。1998年伊勢丹に入社、紳士服部門配属とともに通販サイト立ち上げに参加。1999年、社員数が20人程度だったサイバーエージェントにインターネット広告の営業担当として入社し、後に営業部門統括に就任。2005年に人事本部設立とともに人事本部長に就任。2008年から取締役を6年務め、2014年より執行役員、2016年から取締役に再任。2020年より現職。著書は『強みを活かす』(PHPビジネス新書)、『サイバーエージェント流 成長するしかけ』(日本実業出版社)、『クリエイティブ人事』(光文社新書、共著)等。ビジネス系ユーチューバー「ソヤマン」として情報発信もしている。

2005年の人事本部長就任より10年で20以上の新しい人事制度や仕組みを導入、のべ3000人以上の採用に関わり、300人以上の管理職育成に携わる。毎年1000人の社員とリアルおよびリモートでの交流をおこない、10年で3500人以上の学生とマンツーマンで対話するなど、若手との接点も多い。