エースの若手社員が
入社1、2年で辞めてしまう問題

人材の流出や組織の停滞がもたらすものは、中長期的に見ればリスク以外の何物でもありません

下図のとおり、「抜擢しない」ことは、ハイリスク・ノーリターン(ほぼリターンなし)とも言えるのです。

近頃では、エースの若手社員が入社1、2年で辞めてしまうことが、大企業を中心に問題となっています。

そもそも、エース社員は自分で自分の成長を促し、成果を上げる方法を知っています。

ところが、社内で「自分は期待されていない」と感じたり、自分がもっと成長できる環境がないと感じたりしたら……。

いくらスキルを上げても、実績を上げても、上のポストが空くまで待つしかないとなってしまったら……。

閉塞感を覚えて、早々にその会社を見限ることになるでしょう。

早い成長を強く望む優秀な若手にとって、「抜擢がない」というのは、そのまま退職理由になり得るのです。

そうなると、「抜擢しない」のは人材流出リスクにつながる行為とも言えます。

辞めない場合でも、かつてのエース若手社員がそのまま組織で腐ってマンネリ社員になってしまい、周囲にも悪影響を与えてチーム全体の士気や成果を下げてしまうおそれさえあります。いずれにしても、会社にとっても個人にとっても不幸な話です。

エース社員は、会社にとっても、マネジャーにとっても大事な人材です。

人材育成のためだけでなく、優れた人材の流出を防ぐためにも、「抜擢」は必要不可欠なのです。

曽山哲人(そやま・てつひと)
株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO 曽山哲人氏

1974年神奈川県横浜市生まれ。上智大学文学部英文学科卒業。1998年伊勢丹に入社、紳士服部門配属とともに通販サイト立ち上げに参加。1999年、社員数が20人程度だったサイバーエージェントにインターネット広告の営業担当として入社し、後に営業部門統括に就任。2005年に人事本部設立とともに人事本部長に就任。2008年から取締役を6年務め、2014年より執行役員、2016年から取締役に再任。2020年より現職。著書は『強みを活かす』(PHPビジネス新書)、『サイバーエージェント流 成長するしかけ』(日本実業出版社)、『クリエイティブ人事』(光文社新書、共著)等。ビジネス系ユーチューバー「ソヤマン」として情報発信もしている。

2005年の人事本部長就任より10年で20以上の新しい人事制度や仕組みを導入、のべ3000人以上の採用に関わり、300人以上の管理職育成に携わる。毎年1000人の社員とリアルおよびリモートでの交流をおこない、10年で3500人以上の学生とマンツーマンで対話するなど、若手との接点も多い。