2045年に薬剤師は最大で12.6万人過剰になる――。厚生労働省は今夏、こんな“未来図”を発表した。薬を提供する対物業務から、患者と関わる対人業務を重視せよ。地域医療の担い手となるには、医師と同様に薬剤師にも卒後研修が必要ではないか。その効果を検証する卒後研修の実験も始まった。薬剤師に変革を迫る圧力が高まり続けている。特集『薬剤師31万人 薬局6万店の大淘汰』(全13回)の#2では、転換点に立つ薬剤師の未来を追った。(ダイヤモンド編集部 大矢博之)
ワクチン打ち手不足もメンツ優先で及び腰
「医療の担い手」実績づくりを逃した薬剤師
「“あの時”に既成事実をつくってしまえばよかったのに。そうすれば薬剤師の地位も周囲の見る目も変わったはずだ」
新型コロナウイルスの感染拡大に振り回された2021年。4月からワクチンの接種が始まり、オミクロン株の懸念はあるものの、足元では感染者数の抑え込みに成功している。ある薬剤師がターニングポイントだったと嘆息するあの時とは、ワクチン接種が始まった今春だ。
当時大問題になったのはワクチンの打ち手不足だ。5月、菅義偉首相(当時)が、ワクチン接種の目標として「1日100万回」の目標を掲げた。コロナの対応に追われていた医師に、ワクチン接種というさらなる負荷がかかることになり、無理だという声が続出した。
そこで浮上したのは薬剤師をワクチン接種の担い手とすることだ。米国では薬剤師がインフルエンザなどのワクチンの注射を打っている。当時の河野太郎ワクチン担当相が打ち手として「薬剤師も検討対象になる」と明言したことで、気運も高まった。
しかし、厚生労働省の腰は重く、日本薬剤師会(日薬)も薬剤師によるワクチン接種の研修などを始めたものの、「要請があれば対応する」という受け身の姿勢だった。
関係者によれば、水面下で厚労省や日薬が薬剤師のワクチン接種の実現性を検討した際に、最大のハードルとなったのは医師法だ。