積極財政転換の動きは批判を浴びるが
岸田首相は一蹴

 しかし、自民党総裁選、そして衆院選を契機として始まった積極財政への転換の動きは、大手メディアらによる攻撃にさらされている。大手メディアは連日こぞって財政再建の必要性を説き、国債発行残高や、本年度補正予算案のほとんどの財源が国債によって賄われていることを、「国の借金が」というお決まりの表現で報道している。

 そうした中で、「人の話を聞く」岸田首相は心が折れてしまうのではないかと思いきや、臨時国会冒頭の所信表明演説においても「経済あっての財政であり、順番を間違えてはなりません」と明言、そうした報道を事実上一蹴したといっていいだろう(もっともそれに続けて「経済をしっかり立て直します。そして、財政健全化に向けて取り組みます」と発言しているので、現下における積極財政の必要性を強調しつつも、緊縮財政派、財政健全化派の主張にも配慮したということか)。

自民党の政務調査会に
財政政策検討本部を設置

 さて、積極財政への転換に向けた動きが始まったとはいえ、実態としては、少なくとも岸田政権としては、まだまだ緊縮財政派、財政健全化派に配慮しなければならない状況のようである。臨時国会に先立つ11月29日、自民党の政務調査会に財政政策検討本部が設置され、それまで設置されていた財政再建推進本部が総裁直轄組織へ移管された。形式上は格上げであるが、事実上の活動休止といっていいだろう(もっとも、12月7日に岸田首相も出席して会合が開かれている。今後の動向いかんによっては、活動を活発化させていく可能性も否定できないかもしれない)。

 本部長にはこの組織の設置を提案した西田昌司参院議員が就き、顧問には高市早苗政調会長、古屋圭司政調会長代行、世耕弘成参院幹事長および宮沢洋一税制調査会長が、最高顧問には安倍晋三元首相が就任した。この人事から見ても分かる通り、本部長の西田参院議員は積極財政派の急先鋒であるし、本部の設置を決めた高市政調会長も有力な積極財政派であるが、宮沢税調会長は緊縮財政派、財政健全化派である。副本部長以下の役員人事を見ても、ここでは詳細には紹介しないが、両派が混在している。つまり、積極財政派が緊縮財政派を打倒するために集まった類いの組織ではないということである。

 実際、設置の目的は「財政出動の是非について多角的に検討し、実体経済に即した財政政策の在り方を多角的に議論し、日本を再び成長軌道に戻すための提言をまとめること」とされ、議論を財政出動が必要というところからではなく、そもそも論であるその是非から始めるともに、「多角的」という言葉が2度使われていることからも明らかな通り、限定的な視点・論点だけではなく、緊縮財政派の主張も含めたさまざまな視点・論点について議論・検討する方向性が示されている。