どのような職業であれ、親は子どもに対して、できるだけ自分の職業について語るべきです。できれば、働いている姿を見せたほうがいい。親が生き生きと働いていれば、その仕事が魅力的に見えて、自然と自分もその仕事につきたいと思うようになるものです。親が仕事に誇りを持っていると伝えるのは、将来子どもが良き社会人になるためにも大事なことです」

 ただし問題は、その働いている姿を、子どもたちになかなか見せられないサラリーマンが多いことだと、坂東さんは指摘する。

坂東眞理子氏が語る「就活は品格ある大人になるための通過儀礼」

「かつての日本は、職住が近接し、親の働いている姿が子どもにもよく見えていました。ところがサラリーマンが増えた20世紀後半から、その姿が見えにくくなった。

 私は、日本にベンチャーが生まれにくくなり、活力が失われた理由のひとつは、ほとんどの子どもたちがサラリーマン家庭で育っていることにあると見ています。例えば、商売をしている家で育てば、親の姿を見ながら、お客さまを大切にすることや、投資的なお金の使い方など、ビジネスセンスを学ぶことができます。ところがサラリーマンの家庭では、どうしても給料を無駄なく使って、あとは貯蓄をするという生活態度になってしまいます。

 さらに高度成長期には、専業主婦が大量生産された。それ以前は、父親も母親も働いている現場を子どもたちに見せられていたのです。現在は共働き家庭も増えて、フリーランスでの働き方も増えてきました。コロナ禍で、家でテレワークをする機会が多くなったことも、働く姿を見せるひとつのチャンスです。その意味では、これからの時代のほうが期待できるかもしれません」

就職は子離れのとき
母親の役割、父親の役割

 子どもが就職して社会に出ていくときは、親にとっては「子離れ」のタイミングでもある。子育ての最終目標が、親から自立した立派な人間にすることであるならば、就職は大きなチャンス。子どもにとっても大きなターニングポイントであり、自立への第一歩を踏み出すときとなる。

「日本人は、結婚するまで家にいる子がとても多いですね。就職しても家にいて、掃除や洗濯などの家事をすべて母親にやってもらう子もいます。親は、“経済的自立”と“生活の自立”を子どもに求めるべきだと思います。家に住んでいても、働いているのなら“家賃”を入れる。できれば、世話になっている母親に、感謝とともに渡すべきです。そして、自分の身の回りのことは自分できちんとする。