本は、いつだって「孤独な人間」の味方

pha:実用書で自分自身を根本的に変える、というのはなかなか難しいと思うんです。たとえばさっきの例で言うと、会話が苦手な人が会話術の本を読んで、翌日のプレゼンをなんとか乗り切るとか、話すのがちょっと得意になるとか、それくらいはできるかもしれない。けれど、もともと会話が得意な人にはどうしても敵わないですよね

──たしかに。

pha:読み終わったあと、即効果を得られるような「すぐに効く読書」というのは、今の状況をちょっとだけ改善するのには有効だけど、大きく人生を変えるのには向いていないんですよ。自己啓発書を読んで世界のことや自分のことをわかった気になっても、その理解は浅い。本当の世界は、「こうすればいい」と簡単に言いきれるものじゃない

 根本的に生き方を変えるには、「ゆっくり効く読書」が必要です。一見役に立つようには見えなくても、読むことで何かが自分の中に一滴ずつ溜まっていって、少しずつ、だけど根本的に、人生を変えていく。そういう読書を僕は紹介したいな、と思っています。

自己啓発本を「読むべき人」「読まなくていい人」決定的な差pha氏

──phaさんはベストセラーとなった『しないことリスト』などでも、仕事と家庭を両立して、家を買って……というような、一般的な生き方のレールからは外れた独自のライフスタイルを提案されてきましたよね。人と違う生き方をするのにはどうしても不安が付き纏うものですが、読書を通してどのように人生の土台を作ってきたのでしょう。

pha:そうですね、僕は子どもの頃からずっと、社会にあまり興味が持てなかったんですよね。

 人と仲良くしたり、社会に適応したりするよりも、一人で読書をしている方が楽しいというタイプでした。大学を卒業して就職してからも、ずっと「早く仕事を辞めたい……」と思っていました。

 僕はそんな「社会に合わせたくない自分」というのを肯定してくれるような読書ばかりしてきたな、と思います。本の中には自分よりすごいダメ人間がたくさんいたので、「ああ、こんなふうに生きてもいいんだ」と思って、自分の生き方に少し自信を持つことができました。

──すごい。目から鱗です。つい周りと違うことに不安になって、社会に馴染むためにどうすればいいか、社会で評価されるためにどうすればいいかと考えてしまいがちですが……。「社会とズレていても自分は大丈夫」と自信を持つために本を読む。それがphaさんの読み方なんですね。

pha:幼い頃から持っている基本的な性質って、大人になってもあまり変わらないと思うんですよ。生まれつき社交的じゃない人は大人になっても根本的なところは変わらない。「頑張って社会に合わせなくちゃ」と思うのも大事だけど、そんなふうに社会に自分を合わせることばかりやっていると、不安になるし、疲れてしまう。

 でも、本の中には、自分と同じように「社会に適応できない人」がたくさんいる。会ったことも見たこともない人が、なぜか自分の考えているのと同じことを上手に言葉にしてくれていたりする。読書をすれば、自分と同じ孤独を抱えている人たちがどんなふうに生きてきたか、どんなふうに行動してきたかがわかる。

 そうやって本を読むことで、自分はこの世界の中でどんなふうに生きていけばいいか、ということが少しずつ見えてくる。そうやって読書によって世界と自分を把握していくことが、他人に何を言われても揺るがない「人生の土台」を作ってくれると思うんです。

 この社会で生き抜くためには、頑張って周りに合わせなきゃならないときもあると思います。そういうときには、「すぐに効く読書」をすればいいと思います。

 ただその一方で、「自分が自分のままでいるための読書」もあるんだよ、ということも知っておいてほしい。そんな気持ちで、今回の本を書きました。社会に閉塞感を覚え、不安や息苦しさを感じている人に届いたらいいなと思います。

自己啓発本を「読むべき人」「読まなくていい人」決定的な差pha(ファ)
1978年生まれ。大阪府出身。現在、東京都内に在住。京都大学総合人間学部を24歳で卒業し、25歳で就職。できるだけ働きたくなくて社内ニートになるものの、28歳のときにツイッターとプログラミングに出会った衝撃で会社を辞めて上京。以来、毎日ふらふらと暮らしている。シェアハウス「ギークハウス」発起人。新刊『人生の土台となる読書』(ダイヤモンド社)を上梓した。
自己啓発本を「読むべき人」「読まなくていい人」決定的な差