「元・日本一有名なニート」としてテレビやネットで話題となった、pha氏。
「一般的な生き方のレールから外れて、独自のやり方で生きてこれたのは、本を読むのが好きだったからだ」と語り、約100冊の独特な読書体験をまとめた著書『人生の土台となる読書』を上梓した。
本書では、「挫折した話こそ教科書になる」「本は自分と意見の違う人間がいる意味を教えてくれる」など、人生を支える「土台」になるような本の読み方を、30個の「本の効用」と共に紹介する。

「どうせ死んでしまえばみんな一緒だ」という虚しさから逃れる方法Photo: Adobe Stock

「死」を考えさせてくれる読書

 普段の暮らしの中で、「死」について考えることはあるだろうか。

 死というのは、誰もが避けたいけれど誰もが避けられない、人生で最大の問題だ。

 だけど、みんな普段は、死なんてものは存在しないかのように振る舞っている。

 死について口にすると、不謹慎だと言われたり、精神状態を心配されたりする。

 死ぬことに比べれば、人生の悩みなんてたいていどうでもいいことなのに

 僕は小学生低学年くらいの頃、死がものすごく怖かった。

 布団に入ったけれどなかなか眠れないとき、天井の木目をただ眺めながら、自分がそのうち死ぬということについてずっと考えていた。

 自分はそのうち消えてなくなってしまうということ、そして、自分が消えても世界は今までと変わりなく続いていくこと。それがどうしようもなく理不尽に思えて、納得できなかった。不老不死になりたい、と強く願った。

 その後、成長するにつれて、死について考える頻度は減っていったけれど、それでもずっと、死についての関心は強くあった。

 僕が現実世界で成功したり、お金を稼いだりすることにあまり興味がなかったのは、どうせ死んでしまえばみんな一緒だ、と思っていたからかもしれない。

 僕は周りの人が語りたがらない死について、本からたくさんのことを学んだ。

誕生日に読み返す本

 高校生の頃に夢中になって読んで、今も定期的に読み返しているのが、山田風太郎の『人間臨終図巻』だ。

 この本は、古今東西の著名人923人の死にざまを、死んだ年齢順に並べたという本だ。著者の山田風太郎は忍者同士がひたすら殺し合うという「忍法帖シリーズ」で有名になった人だけど、この本でも彼の人間に対するシニカルな視線が思う存分発揮されている。

 僕は誕生日が来るたびに、同じ歳で死んだ有名人の項目を読むことにしている。

 今、僕は42歳なので、42歳の項目を見てみる。楠木正成(武将・戦に敗れて自害)、森有礼(文部大臣・国粋主義者に刺殺される)、上田敏(詩人・尿毒症)、プレスリー(ロカビリー歌手・薬びたりの生活を続けたのちに心臓発作)の4人が並んでいる。

 みんなすごい人たちだ。しかし、たぶん僕のほうが、この人たちより長生きするだろう。死はどんなに偉大な人にもどんな大金持ちにも、平等にやってくる

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 夏目漱石は、七月十五日付、在ニューヨーク厨川白村宛の手紙の中で、
「上田敏くんが死にました。十三日に葬式がありました。人間は何時死ぬか分かりません。人から死ぬ死ぬと思われている私はまだぴんぴんしています」
 と書いた。その漱石も同じ年の十二月には死んでゆく。
『人間臨終図巻』より引用

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 この本に載っている人たちに比べたら、自分はまだ生きているだけラッキーだ。自分だって、どうせそのうち死ぬのだろうけど、生きているうちはせっかくだから精一杯生きよう、と読むたびに前向きな気持ちになれる

 この本は、古今東西の死に関する名言が章ごとに引用されているのもいい。

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 人間は正視することの出来ないものが二つある。
 太陽と死だ。 ──ラ・ロシュフーコー
『人間臨終図巻』より引用

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pha(ファ)
1978年生まれ。大阪府出身。
現在、東京都内に在住。京都大学総合人間学部を24歳で卒業し、25歳で就職。できるだけ働きたくなくて社内ニートになるものの、28歳のときにツイッターとプログラミングに出合った衝撃で会社を辞めて上京。以来、毎日ふらふらと暮らしている。シェアハウス「ギークハウス」発起人。
著書に『人生の土台となる読書』(ダイヤモンド社)のほか、『しないことリスト』『知の整理術』(だいわ文庫)、『夜のこと』(扶桑社)などがある。