「直感」を信じたくなる心の弱さ

──「直感でピンと来た」などフィーリングで判断する人も多い気がしますが、あれも「認知バイアス」の一つなのでしょうか。

pha:頭であれこれ考えて出した結論よりも、「体が発するサイン」を信じたほうがいい、というパターンももちろんありますね。それも合ってることも多いのですが、あまりに「直感」を信じすぎるのも危ういかなと思っています。

 人間の直感は、頼りになるときもあるけど、間違えることもある。間違えないためには、直感が得意な状況と苦手な状況があるのを知っておくことが大事だなと僕は思っています。

──そう考えるようになったのには、何かきっかけがあったのでしょうか。

pha:麻雀やパチンコといった「ギャンブル」を通して学んだことが大きいですね。麻雀マンガを読んでいると、「流れ」や「ツキ」といった概念がよく出てきます。実際に麻雀を打っていても、「今日は全然ツカないな」とか、「なんか流れが来ているな」とか、そういった目に見えないものを感じてしまうことは多いんです。

「私は直感が鋭い」という思い込みが危うすぎる理由

 でも、それは本当はただの思い込みなんですよね。たとえば、サイコロで5回連続で「1」が出たりすると、「これは流れが来てるから、やっぱり続けて1が出るかも!」とか、「いやいや、さすがにもう1は来ないだろう」とか、何かしら意味を考えたくなってしまうじゃないですか。

──たしかに。私なら、5回連続で来たんだから次も! と考えてしまうかもしれません。

pha:本当は、どんなときでも次に「1」が出る確率は6分の1なんですよね。でも人間は、5回連続で1が出たことにどうしても意味や物語を見出してしまう。

──まさに、先程おっしゃっていた「認知バイアス」ですね。

pha:はい。人間の弱い心は、ランダムな物事の中に、勝手に意味や意図や意思を読み取ってしまうんです。つまりギャンブルというのは、架空のわかりやすい意味や物語を信じたくなる自分の心との闘いなんですよね。

 結局、最終的に勝つのは、余計なことを考えずに淡々と確率に従って打ち続ける人間です。それはギャンブルに限ったことではなく、仕事でも何でも一緒です。自分勝手な物語を作らずに、一番効率のいいやり方を冷静に選ぶ人が、一番勝率が高い。

 まあ、そういった心の弱さがあるからこそ、単純な確率のゲームに一喜一憂して楽しめる、という面もあるのですが……。

 自然の中を歩くとか、人間関係とか、原始時代から変わらないような状況だと直感も当てになるかもしれません。だけど、その直感が現代社会の中ではバグを起こすことがある。純粋に6分の1の確率でどれかの目が出るサイコロをひたすら振る、なんていうのは自然界では存在しない状況ですからね。他にも、SNSや株式市場も原始時代にはなかったものだし、だから人間はそこで愚かな振る舞いをしてしまいやすいのだと思います。

 橋本治さんが『わからないという方法』という本で、自分が物事を判断するときに頼りにしているのは「身体」と「経験」と「友人」だ、と言っていて、僕もそれを参考にしています。一つの軸だけを頼りにすると間違えやすいので、複数の軸を持っておくことが大事です。

 そういった様々な視点を持つこと、「絶対的な正しさはないんだ」と知ることの楽しさ・面白さを、『人生の土台となる読書』では提案しています。ぜひ、日々の生活の中で息苦しさを感じているとか、社会に振り回されている……という人に読んでもらえたら嬉しいです。

【大好評連載】
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「私は直感が鋭い」という思い込みが危うすぎる理由pha(ファ)
1978年生まれ。大阪府出身。現在、東京都内に在住。京都大学総合人間学部を24歳で卒業し、25歳で就職。できるだけ働きたくなくて社内ニートになるものの、28歳のときにツイッターとプログラミングに出会った衝撃で会社を辞めて上京。以来、毎日ふらふらと暮らしている。シェアハウス「ギークハウス」発起人。新刊『人生の土台となる読書』(ダイヤモンド社)を上梓した。
「私は直感が鋭い」という思い込みが危うすぎる理由