サウナの魅力の一つ
「ととのい」の快感とは

 そもそもなぜ「ととのい」に始まるサウナの癒やしが、ここまで人々に求められるようになったのだろうか。

 サウナと水風呂、そして休憩(あるいは屋外で風を受ける外気浴)が生み出す快楽の仕組みは自律神経への刺激によってもたらされるものであるとされている。

 明確な研究データや学術記事がまだ十分にそろってはいないため明言はできないものの、各施設の公式文献や美容・健康関連の監修記事などを参照すると、いずれも「副交感神経と交感神経へ働きかけること」「温度差によってストレスが解消されること」「血流改善・生理機能活性化に効果的なこと」などが癒やしのメカニズムとして挙げられている。

 近現代は「ストレスの時代」として認識されるようになって久しいが、日本社会における長時間労働に起因する慢性疲労や心身の不調などを癒やす存在としてサウナが注目を浴びていることはブームの一因として十分に考えられることだろう。

 サウナブーム到来前夜に「サウナの良さ」に触れた書籍などもいくつか存在しており、たとえば“京大卒ニート”のフレーズでWeb上を中心に支持を得た作家・pha氏が2017年に刊行したエッセイ集『ひきこもらない』(幻冬舎)内では、前述した「サ道」に着想を受け、氏が今まで苦手としていたサウナのとりこになっていく過程などが描写されていることも興味深い要素だ。

 本書は世間一般の“普通”に適合できない切実な悩みが淡々とつづられる内容がメインとなるが、サウナの魅力に気づき始めることで少しだけ生活に救いが見える、といったパートもいくつか存在しており、やはり「サウナ=現代人のストレスに寄り添う存在」であることが推察できる。