認知科学をベースに「無理なく人を動かす方法」を語った『チームが自然に生まれ変わる』は、マッキンゼーやネスレ、ほぼ日CFOなどを経て、エール株式会社の取締役として活躍する篠田真貴子さんも絶賛する「新時代のリーダー論だ。
多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているいま、部下を厳しく管理することなく、それでも圧倒的な成果を上げ続けるには、どんな「発想転換」が求められているのだろうか?

「部署飲み会」と「1on1ミーティング」…部下の“ホンネ”を引き出せるのはどっち?Photo: Adobe Stock

なぜ「部署飲み」は、
リーダーシップにとって無意味なのか?

 リーダー経験のある人なら身に覚えがあるだろう。

 人が集まってふつうに仕事をしていると、そこには「メンバー間の熱量差」が生まれてくる。

 つまり、「熱量の高いメンバー」と「熱量の低いメンバー」がいるかのように思えてくるのだ。

 これは一方に「やる気」が溢れていて、他方に「やる気」が欠けているからではない。

 問題は「やる気」ではなく「認知=ものの見方」のほうにある。

 熱量が低いように見えるメンバーは、言われたことをそれなりにこなす「現状」に没入しきっており、「自分が積極的に行動を起こす世界」のほうに臨場感を抱けていないだけなのだ。

 この状況を変えるには、チームのメンバー全員が本音中の本音で「やりたい」と思えることと向き合えている「メンバー全員Want to」の状態を実現していくしかない。

 マネジャー職の立場にある人が、チームに所属するメンバーのWant toを引き出していく際には、実際いくつかのハードルがある。

 そもそも、いきなり自分の価値観を上司の前でさらけ出せる部下は、かなりかぎられているだろう。

 「これからどんなことをやりたいと思っていますか?」と質問されたところで、部下はどうしても「上司が求めていること」を答えようとしてしまう。

 ここにこそ「他者のWant to」の探索に固有の難しさがある。

 メンバーが心から「実現させたい」と願っていることを知るには、しかるべき手続きを踏む必要があるのだ。

 そこで、誰もがつい考えがちなのが「チームでの飲み会」だ。

 部署のメンバーが疲弊しているのを感じ取ったリーダーが、部下たちを誘ってお酒や食事を共にする。

 場合によっては、リーダーが会計を負担することで、みんなを“労っている”かのような演出がされるときもある。

 アルコールが入ることで、その場にはなんとなく和やかな雰囲気が生まれるし、ふだんは聞けないような「本音らしき」発言が飛び出すかもしれない。

 ひょっとすると、自分の夢を熱く語るリーダーもいるだろう。

 だが、こうした飲み会によって、疲弊しきっているメンバーが「真のWant to」に目覚めることはあり得ない。

 翌日になればいつもの仕事が待っており、誰もが何もなかったように同じ働き方をすることになる。

 これはチーム全体にも「心理的ホメオスタシス」とも言うべき力が働いているからだ。

 いくらリーダーが自身の熱を撒き散らしても、メンバーたちのネガティブパワーには打ち勝てないだろう。

「1対多」の構図になってしまうと、リーダーは彼らの「現状維持マインド」の波に太刀打ちできない。

 スティーブ・ジョブズのように周囲に対して強烈な「現実歪曲フィールド」を持っている人間は別として、ふつうのリーダーがメンバーと向き合うときは「1対1」が基本だ。

 同じ理由から、単発の研修や合宿というのも、効果的とは言えない。

 とにかく「1対多」の構図において、メンバーの内部モデルを一発で変えようとしても、まず間違いなく失敗すると思っておいたほうがいいだろう。

 また、お酒の場も適切とは言えない。

 噓やごまかしをしないで内面の価値観を掘っていくためには、あくまでも「素面」の状態でお互いに向き合う必要がある。

 アルコールに酔った状態では、内部モデルの書き換えなど期待できないからだ。

 以上を考えると、メンバーのWant toを引き出す場面としては、やはり「1on1」形式の面談が理想だろう。

 そのときの会話内容は基本的には2人のあいだかぎりのものとして、会社や同僚にもオフレコになっているのが望ましい。

 そういう意味では、プライバシーの確保された空間や、オンライン・ミーティングを活用することになる。

 とはいえ、「1on1」形式であれば、すぐにメンバーのWant toを引き出せるわけではない。

 ここでもかなりの注意が必要だし、一定のコツが存在している。

 これについては、また後日取り上げることにしよう。