総予測2022#三菱商事Photo by Kazutoshi Sumitomo

三菱商事は21年12月、6年ぶりの社長交代を発表した。22年4月に退任する垣内社長は交代発表前にダイヤモンド編集部の取材に応じ、LNG(液化天然ガス)を軸とする今後30年間の脱炭素ロードマップについて詳細を語っていた。垣内社長が後進に託した思いとは何か。特集『総予測2022』の本稿は、そのインタビューをお届けする。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)

「週刊ダイヤモンド」2021年12月25日・2022年1月1日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は原則、雑誌掲載時のもの。

2050年にGHG排出量をネットゼロに
エネルギー転換に2兆円の巨額投資へ

――三菱商事の2022年3月期純利益目標は7400億円で、前期の1726億円から大幅増益となる見込みです。この1年間で、どのような経営環境の変化があったのでしょうか。

 やはり一番大きいのは、コロナ禍です。前期は世界中の需要が低下し、生産・物流・販売のさまざまなマイナスファクターが業績を押し下げた。それが今期は一転して回復基調となり、需給のタイト感が生まれた。

 1年でこれほどの変化はかつてほとんどなく、(前期と今期が)われわれの実力値の下振れと上振れの幅だという捉え方をしています。ただ、こうした経営環境の変化はできる限り冷静に見た方がいい。

――タイト感は長続きしないと。

 これから何年もこういうパターンが続くとは思いません。需要をカバーするために増産もするでしょう。従ってデジタルやAI(人工知能)を使って需給変動をどう予測するかが重要になる。そういうノウハウを、人類は獲得したのだと私は思います。

――三菱商事も獲得したのですか。

 うちも握りつつあります。非常に大事な部分だと思っています。

――具体的には。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)の対象案件を今、70件ほど進めています。極端なことをいえば、「AIを使えるところは全部使ってしまえ」と。最初に手掛けたのは、食品流通分野です。適正な流通により廃棄ロスをなくし、倉庫の稼働率を上げる。AIを使った検証を実行中です。

――脱炭素に関し、50年にGHG(温室効果ガス)排出量をネットゼロとするロードマップを公表しましたが、実現への道筋は。

 三つのポイントのうち、2兆円規模のEX(エネルギートランスフォーメーション)関連投資については、社内で足かけ2年、50回以上会議を開いて議論しました。

 エネルギー移行をスムーズに進めることは私どもの使命だと思っています。途中で放り投げてネットゼロに向かうことは許されない。

 日本のエネルギーは既にLNG(液化天然ガス)が中心になっていますが、われわれにはその担い手としての責務がある。再生可能エネルギーの、いわゆる天候から起こる需給ギャップを補うためにも、最も安定した燃料性質を持つLNGに投資するという行動も辞せず、ということを明確に言ってしまいたい。

 2兆円のざっくり半分くらいは風力を中心にした再生可能エネルギーに、残り半分は素材として必要な銅やLNG、水素やアンモニアの開発へ投資します。

――垣内社長は以前、「LNGはいずれなくなる」と言っていましたが、その考えから後退したのではないでしょうか。