実は、トヨタは9月にも「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」を開いており、世界各国の実情に応じた全方位電動車戦略に向けて、30年までに車載電池開発・生産投資を1兆5000億円に拡充することを発表していた。また、これに先立つ5月には、電動化戦略としてHEVを含む電動車販売目標を30年に800万台とする中で、BEVとFCEVは合計で200万台とする目標を打ち出していた。

 前回から3カ月あるいは半年足らずの間の短期間で、これだけ計画を上方修正するのは異例と言っていい。

 また、今回の発表会場でプレゼンする豊田章男社長の後ろで、22年央に世界各地で発売される新型BEV「bZ4X」をはじめとする16台もの次期トヨタBEVが披露された。スモールからコンパクト、ピックアップトラック、デリバリーバン、オフロードカー、レクサスBEVに至るまで、トヨタのBEVフルラインアップが一堂に会する壮観の構図だった。質疑応答の時間前にこの次期トヨタBEV車種群を背景にした章男社長の写真撮影・スチール撮影の時間が取られたのも異例のことであった。

 それだけ、この会見に対する思い入れが強かったということだろう。

全方位戦略が招いた
「EV否定派」というレッテル

 なぜトヨタがあえてここで「フルラインアップでBEVをそろえ、世界を支える」(豊田章男社長)と宣言したのか。

 そもそも、世界では環境対応への機運が高まり自動車も環境負荷への対応が進んでいる。走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しないゼロエミッション車としてBEVと燃料電池車(FCEV)が市販されているほか、「電動車」としては、これにモーターとエンジンを使うハイブリッド車(HEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)がある。

 このうち、BEVは、ピュア(純粋)EVとも呼ばれ、環境対応の本命として“BEVシフト”が加速している。すでに、欧州連合(EU)は、35年までにガソリン車やHEVの販売を実質禁止する方針を打ち出し、米国も30年に新車販売に占めるBEVなどの割合を5割にするとしている。中国も「新エネルギー車」の生産を義務付けるNEV規制を導入し、BEVで中国自動車産業を強化する国策を進めている。

 世界の自動車メーカーを見渡してもベンツ、ボルボ、ジャガー、アウディなど欧州高級車ブランドが100%BEVにする方針を掲げたり、米ゼネラル・モーターズやホンダのように35年、40年までに全てBEVとFCEVとする計画を打ち出したりするなど、ゼロエミッション車への切り替えが急加速している。また、BEVで現在世界トップの米テスラへの市場評価は既存の自動車メーカーより高く、時価総額で圧倒的な位置付けを示している。

 これに対し、トヨタはかねてBEVだけでなく、HEVやFCEV、環境性能を高めたエンジン車などを幅広く提供する“全方位戦略”で脱炭素に取り組む方針を進めてきた。

 これがともすれば「トヨタはEVに慎重で後ろ向き」との見方につながってきた側面がある。