また、日本自動車工業会(自工会)会長も務める豊田章男社長は常日頃から「全てをEVにするのは違うと思う」と発言してきたのも誤解されたようだ。この発言の真意は、日本のエネルギー事情を考慮すればむしろEV化によって環境負担が増す、という主張だ。

 カーボンニュートラルを目指すには、エネルギーを「作る」「運ぶ」「使う」という全ての流れの中でCO2排出量をゼロにする必要がある。確かに、自動車は「使う」セクションにあるため、EVに置き換えればここではCO2を排出しなくなる。しかし、動力に必要な電力やEVに搭載する蓄電池の生産に必要な電力を発電する際に、火力発電由来の場合、かなりのCO2を排出する。

 日本は火力発電の割合が75%と非常に高いため、EV化だけではCO2排出削減につながらない。また、日本国内の全乗用車をEV化した場合の必要な電力量は、日本の発電能力ではまかなえないのが実情だ。

 その主張自体はもっともだが、日本の自動車産業を引っ張るトヨタがこうした脱炭素方針を掲げていることに対して、“EV慎重派”という見方が強まってきたのは確かだ。

 しかし、直近でトヨタを取り巻く環境は急変している。欧州や中国がEVシフトを急速に進め、さらに米バイデン政権もEV推進支援にかじを切りだした。11月末には、日産が長期ビジョンを発表し、「世界のEVリーダー」への再起を狙っている。9月には欧州・ドイツで開催された「IAAモビリティ」のモーターショーが欧州メーカーを主体にさながら“EVショー”の様相を呈した中で、日本勢は軒並み不参加だったために、世界のEV化の流れに出遅れたとの指摘が広がった。

 この一連の動きにトヨタが触発されたのは間違いない。

 前回の電動車戦略を発表した9月から3カ月という短い間に豊田章男社長が自らプレゼンしてまで今回の発表を行ったのも、この世界的な潮流を無視できなくなってきたという背景があるからだろう。

 環境団体のグリーンピースが世界の自動車大手10社の気候変動対策についてトヨタを最下位とする評価を下したことに対して「これでも前向きでないと言われるなら、どうすればご評価いただけるのか」と章男社長は逆に胸を張った。